[ 特集 ]アオイナツ

アオハルのナツといえば、やっぱり気になるのは恋愛のこと。でも、そもそも「恋愛」ってどういうこと? 社会学の観点から「恋愛」を研究している大森美佐さんに聞きました。

意味は辞書に載っているし、AIならすぐに答えてくれるけれど、私は「正解がないのが恋愛」だと思います。理性や知性、社会性などにとらわれず、五感でかれる感情的な部分がある一方で、社会や文化、時代といった背景をもとに人々によってつくられていく面もあります。個人的な価値観でとらえ方も変わるので、「自分らしい恋愛ってどんなの?」と考えることが大切なんです。

してもいいし、しなくてもいい。友だちがつきあっていると、寂しく感じるかもしれないけれど、焦らなくて大丈夫。大人でも「恋愛が得意じゃない」という人はたくさんいます。いつかは誰かを好きになるかもしれないしね。今は娯楽がたくさんあるし、受験勉強に集中したい人もいて、「恋愛なんてしていられない」って思う子も増えているのかも。

同性を好きになったり、告白しようか悩んだり…恋愛の悩みはいろいろ。誰かに相談するのもちょっと恥ずかしい。そんな時にヒントをくれるのが、小説やマンガ、映画などに描かれる多様な恋愛。あなたの気持ちにぴったりな作品に出合えれば、心が軽くなって、解決策が見つかるかも。

「ドキドキする」「キュンキュンする」という感情があるなら恋でしょう。ただ、恋愛とはちょっと違うのかも。私は、恋愛はコミュニケーションだと考えています。推しに一方的にあこがれる関係は、直接の対話がないので恋愛が成立しにくいからです。でも、本人が「恋愛」と思うなら、それはもう恋愛ですね。

異性を好きになるのか。同性を好きになるのか。女性も男性も恋愛対象なのか…など、性のあり方(セクシュアリティ)は人それぞれ。あなたを信じて打ち明けてくれた(カミングアウト)のなら、きちんと話を聞いて、受け止めてあげましょう。それを別の人に暴露ばくろすること(アウティング)は、プライバシーの侵害になるので気をつけて。

手をつないで下校したら恋人? もう「つきあってる」の? 友だちと恋人の境目って難しい。欧米では、告白をしなくても自然に恋人関係になる場合が多いようですが、日本では性に対する意識が違います。「告白」してOKをもらったら「つきあっている」「恋人同士」といった暗黙のルールがあり、初めて特別な関係になれることも多いようです。つきあって何をするかは人それぞれ。話し合って決めましょう。

もし、好きな人がいたら、その人とどんな関係になりたいかを考えてみてください。相手とただ仲よくなりたいだけ?手をつないで歩きたい? それとも…?思い描く形に合わせてアプローチをする時は、相手の気持ちを考えることを忘れないで。相手と同じ立場に立ち、信頼し、尊重することが何より大切なのです。

恋愛は、お互いのことを理解しながら、理想の関係をつくっていくもの。コミュニケーション力、思いやりの心、社会性なども育まれるんですよ。もちろん告白して振られてしまった時も。誰かを「好き」、相手を思いやる気持ちを大切にしてください。

 「先生は、恋愛のプロなんですか?」
 恋愛の研究をしていると、こんなふうに聞かれることがあります。そんな時は、あわてて訂正します。
 「私は“恋愛のプロ”でも“恋愛マスター”でもありません。あくまで、恋愛について社会学的に研究しています」
 恋愛を通じて見えてくる社会は、個人の感情や行動といった小さな世界にとどまらず、社会や文化、時代、ジェンダーなど、もっと広い世界を知るきっかけになります。そこが面白いところですね。

 そもそも私が社会学に興味を持ったきっかけは、10代の頃の恋愛体験にあります。
 私が生まれ育ったのは石川県。地元の高校から短大へ進学し、卒業後はすぐに就職。その後結婚して出産というルートをたどる人が多い地域でした。しかし、海外に興味のあった私は、高校時代にカナダに留学。卒業後は東京の大学に進学しました。
 その頃、私には中学から8年間交際していた彼がいました。彼は、卒業後に就職し、私は大学で学ぶため上京。お互いに遠距離恋愛をすることで納得していたのですが、彼の親からは「大学に進学するなら、息子とは結婚できないね」と言われてしまいました。
 「どうして大学に行くと、結婚できないの?」。進学と恋愛・結婚が結びつけて語られることに違和感がありました。恋愛は、とても個人的なことだと思っていたのに、実際は地域の文化や家庭環境、学歴など、社会的な要素にも影響される。そこに興味を感じて、社会学の道に進んだのです。

 恋愛は、一般的な友だち関係に加えて、性的な要素が関係してくるので、相手をリスペクトして接し、丁寧なコミュニケーションを心がけなければなりません。だから、学校では教えてくれないけれど、皆さんが恋愛について考えることは、人間関係や個人の人権について学ぶうえでも、とても重要なテーマだと思っています。

 いま中学生、高校生の皆さんにとって、「友だち関係」と「恋人関係」の違いはどんなものでしょうか。本人に直接聞かなければ、友だちなのか恋人なのか、分からなかったりするのではないでしょうか。
 「友だち関係」と「恋人関係」が近く、その違いがあいまいだから、「好きです」と告白することが生きてくるのかもしれませんね。

 ところが、皆さんのお父さん、お母さんの世代では、「友だち関係」と「恋人関係」は今とは違うものだったと思います。おじいさん、おばあさんの世代、さらに、ひいおじいさん、ひいおばあさんの世代ではもっと違うでしょう。恋愛することも、好きになった相手と結婚をすることさえ珍しかったのですから。

 「恋愛」というのはとても個人的なものですが、このように、社会や文化、性に対する考え方、時代によっても変わってくるものでもあります。

 あなた自身の中でも変化していくと思います。

 例えば、今は好きな子がいなくても、いつか好きになるかもしれない。それは、同性かもしれないし異性かもしれない。好きな人はたくさんいても恋愛感情にならないこともあるかもしれないし、恋愛感情を持つ相手が現れても、性的な感情を持たないかもしれない。また、今の感情が突然変わることもあるかもしれません。恋愛と性は多様なのです。

 「自分とは違う考えの人」に対して、ネガティブな感情を持ってしまうことはあるかもしれません。そうした時には、そこで一歩止まって、考える必要があります。そうした感情を持つことはありますが、それが差別につながっていないか、自分の考えは本当に正しいのかを考えてみてください。

 いま、正解だと思っていることも、社会や時代によって変わってくることがあると思います。その時に大切なのが「当然」を疑う姿勢。これは、恋愛だけではなくて、すべてにおいて大事なことです。

 最後に「恋愛」する時に気をつけてほしいことを。
 自分の心や体は「自分自身に属しているもの」で、他人が勝手にしてはいけないということです。つきあっているのだから、相手に何をしてもいいというわけではありません。
 ロマンチックじゃないと思うかもしれませんが、相手に同意を求めるのは、相手の気持ちを尊重することなのです。

 「恋愛はコミュニケーション」と、何度もお話ししてきました。恋愛についての考えや価値観は人それぞれです。だからこそ、相手とよく話し合って、お互いの正解を探していくしかないのです。大切な人と、よくコミュニケーションをとって、すてきな恋愛をしてほしいと思います。

(構成:編集部)

大森美佐おおもりみささん
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程修了。博士(社会科学)。武蔵野大学非常勤講師。日本社会における家族や夫婦、若者たちの親密性のありかたを社会学・ジェンダーの視点から研究。著書に『中学生の質問箱 恋愛ってなんだろう?』など。スペイン在住。

『恋愛ってなんだろう?』
大森美佐(平凡社)

イラスト:村澤綾香

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025年夏号(No.10)に掲載したものです。