社会貢献活動「シュガプロ」を立ち上げ、クラウドファンディングで絵本『ぼくはキリン』を企画。その収益を保育園や幼稚園、児童ホームなどに寄贈している佐藤卓磨選手。バスケでも、オフでも、そんなに動けるのはどうして?


バスケットボールは、一瞬のひらめきで、10人がコート内をすごいスピードで走り回る、体力と知性が求められるスポーツです。
僕のポジションは、3番のスモールフォワード。3ポイントシュートを決めて、走ってディフェンスして、リバウンドを取ってチームメイトがプレーしやすいように頑張るポジションです。
10月からはBリーグの新しいシーズンが始まります。今の名古屋ダイヤモンドドルフィンズは優勝をねらえるメンバーなので、皆さん期待してください。
僕は今、膝のけがでリハビリ中。でも、意外なほど落ち込んでいません。1日目は悔しくて泣いたんです。でも、2日目からは目の前のことを頑張ろうと思えるようになった。「膝仲間」と呼んでいる、同じけが、もっと大けがをした選手からたくさんメッセージが来たのもうれしかった。
「痛みなくして成長はない」と思っているので、これももうちょっと成長するために与えられた試練かなと。失敗をたくさんして、そのたびに強くなってきたし、チームメイトの支えもあって、このメンバーなら自分も頑張れるなと、むしろ復帰までの道のりが楽しみなんです。
「困っている人を助けたい」「誰かの役に立ちたい」。そういう気持ちは誰の中にもあって、特別なことじゃない。人のために動くのも、人間の本能に組み込まれていて、誰にでもできることだと思っています。



僕の両親は、地域の人に寄り添う活動をするなど、尊敬できる存在。小さい頃から、そんな両親の姿を見ていたので、人のために動くことの大切さを学んだのかもしれません。また、父の教えに「何かを得たいなら、まず自分のできるものを与えよう」があります。僕も、周りの人を大切にできれば、自分だけでなく、みんなで成功できると信じています。





ⓒNAGOYADZ
社会貢献活動をする「シュガプロ」を立ち上げて、絵本『ぼくはキリン』を作ったのもそんな思いから。引っ込み思案の主人公・キリンくんがバスケに出合って、自分らしく成長する話で、「誰にでも自分の強みはある」というメッセージを込めました。
約4000の施設に寄付をし、幼稚園や養護施設などで読み聞かせの活動をしています。すると、絵本を通じてバスケ界以外の人たちとの関わりが増え、世界が広がりました。人のためにすることは、回り回って、いつか自分のためにもなると、改めて感じました。
バスケ選手として活動していると、地域の皆さんの協力や地元のスポンサーの支援があり、ファンの皆さんが応援してくださる。僕はもらってばかりですが、チームのために誰よりも動いて、勝利に貢献し、自分にできるやり方で感謝を表現していきます。

『ぼくはキリン』
さく・さとうたくま え・カワダ クニコ
佐藤選手サイン入りの『ぼくはキリン』を5名の方にプレゼントします。

世界最高峰のプレーに魅了されて、バスケの道へ

僕がバスケットボールと出合ったのは小学4年生の時、「世界バスケ(FEBAバスケットボール・ワールドカップ)」が北海道で開催されて、初めてアメリカ代表選手を見た時でした。当時、Bリーグは今のように盛んではなかったので、そのタイミングで世界最高峰の選手を見て、そこからファンになって、バスケも大好きに。でも、強豪校にいたわけでもないし、プレーするのが楽しくて、趣味で続けていました。
プロ選手を意識したのは中学の頃です。北海道でプロ選手のバスケットボール・クリニックが開かれ、僕はその手伝いで参加したんですけれど、そこでスカウトの人の目に留まり、新しい世界への一歩を踏み出すきっかけになりました。
僕はいつも、バスケ界を盛り上げるために、バスケ人口を増やしたいと考えています。そのためには、ディズニーみたいに、子どもの頃からバスケを目にしてくれたらいい。その方法の一つが、絵本『ぼくはキリン』の読み聞かせです。こんなにデカい僕が、絵本を読んだら覚えてくれるかな、と。
読み聞かせの後には、「得意なことは、主人公のキリンくんと同じバスケだよ」と、バスケを披露します。僕を“実写版キリンくん”として見てくれて、子どもたちの反応もいい。そこでバスケを好きになって、バスケを始める入口になれたらうれしいですね。
中高生の頃、僕は「夢がありますか?」と聞かれるのがあまり好きじゃありませんでした。「夢を持つより、自分のできることをやればいいんじゃない?」と思っていました。
絵本『ぼくはキリン』にも書いたんですけど、「得意なことは誰にでもある」と思うんです。「好き」なことをやるのもいいんですけど、「好き」と「できる」を分けることは大事だと思います。
いろいろな生き方があるけれど、中高生のうちに、自分ができる強みを見つけるといいと思います。苦手なことを克服するのではなく、得意なことを伸ばしたほうがいい。そこから夢が出てくるだろうし、可能性が広がって、仕事など将来につながっていくと思います。
アウトプットを習慣づけて、
自分の強みを見つけよう

では、どうすれば強みが見つかるのか。
僕は、中高の6年間、顧問の先生に見せる交換日記のような日記を書いていました。「バスケがうまくなる」「20XX年には、これくらいできるようになっている」とか、夢も書いていたんですけど(笑)、夢だけでなく、毎日の行動を書くことが大事です。書いてアウトプットすると、自分のことが分かる。できること、できないことも整理できて、自分の強みを見つけられます。
僕は、高校2年生の頃から、「おまえはプロになるんだ」と言われ、期待されるようになりましたが、最初の頃は家業に興味があったので、積極的ではなかったんです。でも、やがて、バスケできる? 僕できる? できちゃう?(笑)というように、「やりたい」より、「できる」が上回って、バスケの道に進みました。
大学生になって、遊び過ぎて自分を見失った時も、その時の気持ちを書いて整理していました。それが自分の軸になっています。
日記を書かなくても、人に話してもいい。自分の中に留めておくのではなく、自分なりにアウトプットする方法を見つけて習慣づけてほしいと思います。

失敗しても落ち込まなくて大丈夫。
人生トータルで勝ちにつなげよう。
プロバスケ選手をしていると、成功者のように見られがちですが、僕は、精神的にも能力的にも意外にポンコツなところがあって、人より失敗して、人にいっぱい迷惑をかけてきました。けれど、「トータルで勝てばいいんだから、目の前のことに一喜一憂しない。負けを受け入れて前に進むことができたら、人生トータルで勝ちになる」と思っています。
中高生でも、この考え方は大切で、もし僕が当時に戻れるなら、自分に教えてあげたいですね。
例えば、試合に負けたり、推薦に落ちて希望の高校に入学できなかったり…。そのたびごとに人生の終わりみたいに感じていました。大人に励まされても、その傷をえぐられるようで、「おまえに分かるわけねぇだろう」って。
僕は、推薦に落ちて、別の高校(東海大学附属第四高校)に進学したことで、恩師で元日本代表の佐々木先生と出会い、飛躍することができました。
中高生の頃は、受験や部活が忙しくて、うまくいかないことの方が多いと思います。でも、目の前の失敗に落ち込まなくていい。
僕のように受験に落ちても、その後に出会う人、友だち、恋人によっていろいろ経験も変わってくる。
失敗して痛い思いをした人は、人の痛みを知っている。それは必ず、自分を成長させるための糧になり、周りの人を大切に思う心にもつながっていくと思います。
(構成:編集部)
佐藤卓磨
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
愛知県名古屋市を拠点とするプロバスケットボールチーム。B.LEAGUE(Bリーグ)のB1リーグ中地区に所属。ホームアリーナは「IGアリーナ」。チームカラーは、赤、白、シルバー。マスコットはドルフィー。
https://nagoya-dolphins.jp/
B.LEAGUE 2025-26シーズン開幕試合
2025年10月4日・5日
対戦相手: レバンガ北海道
会場: IGアリーナ(愛知県名古屋市)
Bリーグチケット https://bleague-ticket.psrv.jp/
佐藤卓磨さん
1995年、北海道生まれ。プロバスケットボール選手。2017年に滋賀レイクスターズ(現 滋賀レイクス)に入団、20年に千葉ジェッツふなばしに移籍、23年から現在の名古屋ダイヤモンドドルフィンズに所属。22年、23年には日本代表としてプレーした経験がある。ポジションはスモールフォワード。197㎝、93㎏。チームの社会的責任プロジェクト“Dolphins Smile”の活動で「子ども支援COCO(ここ)プロジェクト」のアンバサダーを務め、自作の絵本『ぼくはキリン』の読み聞かせ活動を中心に取り組んでいる。

写真:水野浩志
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025年秋号(No.11)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。