[ 特集 ]「ありがとう」の気持ち、伝えてる?

フリーアナウンサーとして活躍中の川田裕美さん。「好き」や感謝の気持ちを伝えるにはどうすればいいのか。自分らしく伝えるコツをお聞きしました。

 アナウンサーの仕事をしていると、人との出会いが多く、感謝を伝える機会がたくさんあります。プレゼントや手紙、メールなど、伝える方法はいろいろあるけれど、私は相手の顔を見て、自分の言葉で、恥ずかしがらずに伝えるのが大切だと思っています。
 いつ言おうかと迷っていると、言えずに終わってしまうこともあります。だから、「今日は、あの人にお礼を伝えよう」と心に決めている時は、会ったらすぐに言うことにしています。
 「ありがとう」はすてきな言葉で、言われた人がうれしいのはもちろんですが、伝えた側もすがすがしい気持ちになります。
 お互いの気持ちがやわらぐと、その場の雰囲気もよくなり、会話も自然にはずんでいきますよ。伝えたいことは取っておかないで、最初に言ってしまいましょう。

 10代になって、私は周りの目がとても気になり始めました。みんなと一緒のことをするより、離れたところから見ている自分がかっこいい、なんて思った時期も。だけど、みんな自分のことを考えているので、他人のことなんて気にしていません。だから、深く考え過ぎないことですね。
 10代の頃は、自分の立ち位置や成績の順位をつい考えちゃうけれど、それがすべてではありません。春には新しいクラスになるし、高校や大学に入学したら、新たな世界が始まります。

 中高生の頃、私は、一番身近な母に「ありがとう」を言っていませんでした。言っていなかったことにさえ気づかず、自分のことでいっぱいいっぱいでした。
 そのことに気づいたのは、大学受験の時。受験校の選択や、1人暮らしの可能性など、両親の協力なしでは決められないことがたくさんあって、母に相談をしたんです。母は私の性格や目標を理解していて、的確なアドバイスをしてくれました。私のことをちゃんと見ていてくれたんだと改めて気づいて、感謝の気持ちが湧いてきました。
 「私は一人で生きてきたわけじゃない。気持ちとお金と時間をかけてくれる家族がいるから、ここまで成長できたんだ」ということを、あの頃の自分に教えたいです。

 「好き」も伝えづらい言葉だと思います。そんな時は、「好き」を言い換えるといいかも。例えば、「○○ちゃんがいると、とってもうれしいんだ」とか、「○○くんと一緒だとすごく楽しい気持ちになる」とか。「好き」とは言えなくても、好きと同じ意味になるし、好きな気持ちは伝わると思います。
 話すのが苦手という人は、無理しなくていいと思います。仲よくなりたい人がいたら、自分がしんどくない状況になったら話しかけてみる。「そのキーホルダー、どこで買ったの?」とか、「いつもかわいい髪形してるね」とか、気になっていること、すてきだなと思っていることを話題にする。そこから勇気が出てきて、もっとたくさんの人に話しかけられるようになるかもしれません。

 これからの時期は、バレンタインデーや卒業、進学などのイベントが続き、気持ちを伝えるチャンスがたくさんありまやす。もし、告白したいと考えているなら、自分の得意なことを生かして気持ちを伝えるといいと思います。
 料理が得意なら手作りのお菓子。絵が得意ならオリジナルの作品。音楽が好きなら自分の好きなプレイリスト。話すことが得意なら、気持ちをちゃんと伝える。
 私はあんこが大好きなので、お世話になった方に感謝を伝える手みやげは、和菓子を渡します。詳しく説明できるし、「おいしいんです!」と、自信を持っておすすめできますから。相手が好きそうな物を贈って、その方のほうが詳しくて失敗したことがあって、やはり、自分の得意分野にしようと思ったんです。

 私の夫は、「好きだよ」と言葉で言ってくれるタイプ。言われるとうれしいし、最初は恥ずかしかったのですが、自然に私からも言うようになりました。子どもたちの前でも、「パパのこと大好き」と言ったりすると、うれしい空気が広がっていくんですよ。
 皆さんも、自分の気持ちをたくさんの「ありがとう」や「好き」など、言葉にしていってください。そうすれば周りのみんなも言うようになって、すてきな学校生活になると思います。

 私がアナウンサーを職業として初めて意識したのは、中学生の時でした。テレビドラマ『ニュースの女』で、鈴木保奈美すずきほなみさん演じるキャスターを見て、「すてきな仕事だな」「かっこいい仕事だな」と思ったのです。
 でも、どうすればアナウンサーになれるのかなんて分かりません。狭き門だということは知っていたので、もっとほかの仕事にも目を向けてみようと思ったり、その頃は強く志していたわけではありませんでした。
 それがはっきりとした目標になったのは、大学(和歌山大学経済学部)に入ってから。足立基浩あだちもとひろ先生のゼミで、テレビ和歌山の生放送番組を見学した時でした。初めて生放送の現場を見て、その臨場感と緊張感に圧倒されました。やりがいのある仕事だと実感し、「アナウンサーになりたい」と思うようになったのです。

 私の就職活動が始まりました。初めは、放送業界だけでなく、一般企業も受けることも考えていました。迷いもありました。それが、両親といろいろ相談するうちに、だんだんと自分の気持ちが固まっていきました。
 大学の先生がよく言っていた言葉も思い出しました。
 「10代、20代の頃は、何度でもチャレンジできる。たとえ失敗しても、何度でもやり直せる」
 失敗しても、そこから新たな何かが生まれることもあるわけで、後悔するより挑戦することが大事ですよね。アナウンサー志望の人はたくさんいて、私が合格する確率はかなり低いかもしれない。けれど、可能性はゼロじゃない! ゼロならあきらめるけれど、可能性がわずかでもあるなら本気で挑戦しようと決めました。

 元々私は、一度決めたら突き進む性格です。両親に「アナウンサー試験一本に絞ることにした」と告げると、いつもはチャレンジを応援してくれる母が、この時ばかりは猛反対しました。よく知らないテレビの世界で娘がうまくやっていけるか不安だったのでしょう。私は、「心からやってみたいと思う仕事だから」と、熱く伝え続けました。やがて母も、私の本気を分かってくれ、その決断を認め、応援してくれました。
 読売テレビの内定が決まったのが、ちょうど母の誕生日だったので、とてもいいプレゼントになったと思います。

 今振り返ると、中高生の頃は、いい思い出もあったけれど、しんどいこともたくさんありました。たぶん、今、同じようにしんどい思いをしている人もいると思います。けれど、絶対に一人じゃないということに気づいてほしい。

 助けてくれる人。味方になってくれる人。協力してくれる人。あなたに寄り添ってくれる人は絶対にいます。だから、悩んだり迷ったりした時は、家族や友だち、先生、SNSなど、誰かに気持ちを伝えて相談してほしいと思います。
 自分で考える何十倍ものいろいろな解決法があります。絶対に助けてくれる人がいることを忘れないでいてください。

(構成:編集部)

『ゆるめる準備 場にいい流れをつくる45のヒント』 川田裕美(朝日新聞出版)

川田裕美かわたひろみさん
和歌山大学経済学部を卒業し、2006年に読売テレビに入社。報道・バラエティー番組で活躍し、2015年に同局を退社。その後はフリーアナウンサーとして、テレビ司会、ラジオなどで活躍している。2019年に結婚し、現在は2児の母。著書は『ゆるめる準備』『あんことわたし』ほか。

写真:石山勝敏 イラスト:イラカアヅコ

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025-26年冬号(No.12)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。