地学は、身近で面白い科学
日本列島の自然の成り立ちを解き明かし、今何が起きていて、これから何が起こるのかを予測するのが地学。世界屈指の地震・火山国に暮らす私たちにとって、とても身近でためになる科学です。しかも、21世紀になってからの研究の最先端が取り入れられるなど、知的探究心を刺激し続けてくれる面白さもあります。
しかし、高校の理科4教科=物理・化学・生物・地学では、履修率が最も低いのが現状。興味を持つ中高生が増えて、私たち地学者の研究を引き継いだり、知識を防災に生かしてくれることを期待しています。
ハカセ、火山に出合う
大学卒業後は通産省(現・経済産業省)地質調査所の研究官になって最初に調査したのが阿蘇火山でした。初めて本物の火山を見て、岩石や火山灰に触り、匂いをかぎ、地層や地形を観察して(このような調査方法をフィールドワークといいます)、大感動。また、そこで得た情報をもとに、「阿蘇の火山灰が2000㎞も離れた北海道に10㎝も積もったのはなぜか」といった驚くべき現象を論理的に解き明かしたりも。こうした感動体験がきっかけとなり、火山専門家の道を突き進んでいくことになりました。
生きた勉強をしよう
阿蘇火山でフィールドワークの面白さを知ってから、勉強がどんどん楽しくなっていきました。室内で立てた仮説が、野外を歩いて実証されることにワクワクし、研究に夢中に。火山研究が好きになってからは、以前より10倍ほど熱心に勉強し、10倍速で知識が頭に入ってきました。このように楽しく学ぶことを「生きた勉強」と呼んでいます。
生きた勉強をしていると、自分が何を好きで、何に向いているのかを知ることができ、将来の進路のヒントになります。失敗したり、違うと思ったら、やり直せば大丈夫。そこでまた選択の幅が広がり、新たな世界が開けます。
未来を生き抜くために
近い将来起きると予想される自然災害の中で、特に知ってほしいのが「南海トラフ巨大地震」。発生は2030~40年。九州から関東までの広い範囲で震度7を観測し、その災害規模は東日本大震災の10倍。32万人が犠牲となり、6000万人に影響すると考えられます。
このように地学の知恵を活用すれば、あらかじめリスクと対処法を知ることができます。地学は、私たちの生活に役立つ、極めて有用性の高い学問なのです。ぜひ、地学者が発信する情報に関心を持ち、できる範囲で備えを進めてください。
南海地震の発生率と
室津港で観測された
地震時の隆起量
「地学」とは
地学は「地球科学」のことで、地球の成り立ち(構造・環境・地球史など)を学習する学問。具体的には、硬い岩盤のある地球(固体地球という)、それを覆う海洋と大気(流体地球という)がどうしてできたのかを明らかにします。最近は、地球を取り囲む太陽系から銀河系、宇宙へと領域を広げています。研究成果は、地震や火山噴火、地球温暖化などの解明につながり、防災や資源探査にも役立てられています。
探求のススメ
知的好奇心がくすぐられて「もっと知りたい」と興味がわいた関心事は、深く調べてみよう。最初はネットやスマホで検索するのではなく、実際に出かけて「本物」に触れること。五感で体験して感動すると、探究心がふくらんで研究するのがどんどん面白くなる。地学に関心があるならジオパーク(地学的に意義のある自然公園)や博物館に行くと、分かりやすく説明してくれる。探求は1人より仲間や先生と一緒なら楽しいし、長続きします。
高校時代
受験校(筑駒)でひたすら勉強。高校の近所だったので東京大学へ進学。
東大時代
数学で0点を取って留年するような落ちこぼれ。低空飛行の成績で振り分けられた専門課程が地学科だった。
地質調査所の研究員に
やる気のない研究員が、阿蘇火山に出合って突然目覚めた。火山研究にハマり、フィールドワークで全国を飛び回り、気づけば第一人者になっていた。
京都大学の教授に
41歳で教授。マグマをイメージしたド派手な赤の革ジャンと、熱心な講義で京大人気ナンバー1教授に。科学の伝道師として、未来を生きるための知識を発信し続ける。
鎌田浩毅
1955年東京都生まれ。火山や地震が専門の地球科学者。現筑波大学附属駒場中・高等学校卒業。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現経済産業省)を経て、97年京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2021年から現職。『揺れる大地を賢く生きる』『100年無敵の勉強法』など著書多数。YouTube「京都大学最終講義」は92万回再生。
イラスト:くぼあやこ
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年春号(No.1)に掲載したものです。