キャラたちのあきらめない心を、突破のためのお手本に
10代の日々は、身も心も揺れ動きます。友だちづきあいがうまくいかなかったり、進路が決まらなかったり、夢が持てなかったり。いろいろなことに迷い、「思うようにならない」「どうすればいいんだろう?」と、悩むことも多いでしょう。
そうした困難をブレイクする手助けをしてくれるのが、アニメや、その原作となっているマンガです。そこに登場するキャラクターたちは、あきらめない心、夢を実現する力、人の気持ちを理解する力、仲間と共感する力などを発揮して、目の前にある壁を突破していきます。
アニメのストーリーを楽しんだ後は、キャラクターの気持ちを掘り下げたり、自分のことに置き換えてみてください。今の自分をブレイクするヒントが隠されているかもしれませんよ。
そしてあなたは、自分の心の中にある「頑張りたい」「前進したい」という思いが、キャラクターたちの思いと重なることに気づくでしょう。アニメに描かれるセリフや行動が、あなたが前進するきっかけとなることもあるのです。
『ハイキュー!!』
原作 古舘春一 集英社「ジャンプコミックス」(全45巻)
「ハイキュー!!TO THE TOP 初回生産限定版」Vol.1~6
Blu-ray&DVD発売中 Blu-ray:9,900円(税込)
DVD:8,800円(税込)
発売・販売元:東宝
Ⓒ古舘春一・集英社/「ハイキュー!!」 製作委員会・MBS
「やりたいこと」に許可はいらない!
主人公の日向翔陽は、小柄ながら、抜群の運動神経の持ち主。高校のバレーボール部で天才セッターの影山飛雄とコンビを組み、個性的なチームメートと力を合わせて全国制覇を目指します。
背の高さが有利なバレーボールでは、背の低い日向は不利。でも、へこたれません。合宿に選ばれなくても片道2時間かけて自転車で参加して球拾いをやりとげたり、いつも前向きでポジティブ。誰の目も気にしません。
本当にやりたいことがあるなら、誰かが何かしてくれるのを期待しないで自分から動く。今、できることをやる。それがブレイクスルーへの近道です。
『灼熱カバディ』
原作 武蔵野創 小学館「裏少年サンデーコミックス」(全25巻)
「灼熱カバディ」全3巻 Blu-ray好評発売中14,080円(税込)
発売元 株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
Ⓒ2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
人間関係を学んで、新たな道へ
主人公の宵越竜哉は、恵まれた身体能力と運動神経の持ち主。中学時代はサッカーのスター選手として活躍しますが、チームメートと不仲になったことがトラウマとなり、高校入学後は、スポーツから離れてしまいます。
宵越の才能を認め、強引にカバディ部に誘ったのが、キャラの濃い先輩たちでした。かつて、同年代から妬まれたことが原因で、他人との関係に踏み出せなかった宵越は、カバディを通して先輩たちと、人間関係を学んで、新しい道を切り開くことができたのです。
他人との絆を強くすることが、トラウマを解消する後押しになることもあるのです。
『NARUTO』
原作 岸本斉史 集英社「ジャンプコミックス」(全72巻)
自分の力を信じる
忍者同士が、超常的な能力を駆使して戦うバトルアクション作品。仲間との友情、師弟や家族との絆、裏切りと復しゅうが描かれています。
主人公のうずまきナルトは、家庭環境に恵まれず、周りからは否定され、裏切られてばかり。自己効力感の低い少年でした。自己効力感とは、自分の力を信じる力のこと。ナルトは、自分の置かれた状態を他人のせいにはしません。「やればできるはず。頑張れば何とかなる」と、自分で自己効力感を高めていきます。
失敗したり、何かがうまくいかない時、他人や社会のせいにするのは簡単なこと。でも、自分の力を信じることができれば、限界を超える突破力につながっていくのです。
『鬼滅の刃』
原作 吾峠呼世晴 集英社「ジャンプコミックス」(全23巻)
自分以外の誰かのために
大正時代の日本を舞台に、主人公の少年・竈門炭治郎は、鬼化した妹・禰豆子を人間に戻す方法を見つけるため、鬼殺隊の剣士となり、鬼と壮絶な戦いを繰り広げていきます。
炭治郎にはいつも理不尽な危機が押し寄せてきます。敵の鬼舞辻無惨と戦わなければいけないのに、傷を負っていて、倒せる確信はありません。地獄のような戦いになるのは明らかです。不安でいっぱいでしたが、それでも炭治郎は戦います。
今自分にできることを精一杯やる。現実を受け入れ、次の一歩を踏み出すことが誰かの助けにつながると確信しているからです。誰かのために動くことが、自分の強さをつくる原動力になります。
『SKET DANCE』
原作 篠原健太 集英社「ジャンプコミックス」(全32巻)
思いやりが周囲を変える
学園生活支援部、通称「スケット団」は、人助けを目的とした高校の部活動。部員は、お調子者のリーダー「ボッスン」、武闘派女子「ヒメコ」、クールな頭脳派「スイッチ」です。それぞれに問題を抱える3人ですが、困っている人に手を差しのべます。その理由は「助けてあげたら楽しいじゃん」。そして「補い合えたらカッコいい」から。
このように、他者の気持ちや利益を考えて行動することを「向社会性」といいます。これは、人との信頼関係を築く上でとても大切なこと。孤独だった3人も、いつのまにか信頼してくれる仲間たちに囲まれていることに気づきます。
『ブルーピリオド』
原作 山口つばさ コミックス(既刊15巻)
講談社「アフタヌーン」連載中
Ⓒ山口つばさ・講談社/ブルーピリオド製作委員会
MBS/TBS系全国28局ネットにて2021年10月~12月放送
10代はモヤモヤを抱えて迷うもの
高校2年生の主人公・矢口八虎は、優等生だが、進路が決まらず、モヤモヤした何かを抱え、達成感のない日々を送っていました。しかし、一枚の絵に衝撃を受けて、絵の魅力にハマります。渋谷の朝焼けの風景を青一色で描いたことで、独自の感性に気づき、難関の「東京藝術大学」を目指します。
10代の頃は、受験や進路に悩み、答えが出せなくて迷うもの。矢口は「青い渋谷」を描いたことで自分の道を見つけました。好きなことに打ち込み、いろんな人や物事に出会うことで、自分の知らなかった世界が広がり、新たな一歩を踏み出したのです。
『コタローは1人暮らし』
原作 津村マミ
小学館「ビッグコミックス」(全10巻)
「コタローは1人暮らし」Netflix 2022年3月より
全世界独占配信 TOKYO MX、BS11 2023年1月~3月放送
Ⓒ2022 津村マミ・小学館/コタローは 1 人暮らし Project
応援してくれる人は必ずいる
4歳児のさとうコタローが、おんぼろアパートで一人暮らしを始め、強くたくましく生きていく物語。
いつか両親に再会できる時のために強くなりたいと、一生懸命に頑張って、人に頼らずに生きていこうとするコタロー。彼に寄り添い、応援するのが、売れない漫画家・狩野をはじめとするアパートの住人たちです。必要な時に手助けをしてくれる狩野もまた、コタローの他人を優先する考え方に学び、支え合って生きています。
困った時、苦しい時は、周囲の人に頼ればいい。応援してくれる人に感謝しながら頑張れば、現状から抜け出すきっかけがつかめます。
「頑張ってみようかな」と思った時に見たいアニメ
冊子では紹介しきれませんでしたが、ブレイクスルーのお手本にしたいアニメは、ほかにもたくさんあります。
例えば『王様ランキング』。愛と裏切りと冒険で展開するとても面白い話です。ボッス王国の第一王子ボッジは、巨人の両親とは違って小柄で非力なうえ、耳が聞こえず、言葉も話せません。周囲からは王の器ではないと見下されますが、諦めない心で、王になるという夢の実現に向かって突き進みます。でも、「王になる」という夢をあきらめることはありません。修行して、自分の弱点を生かした強さを身に付けます。そして、魔物との苦しい戦いを何度も乗り越えて、最弱から最強になっていきます。
その原動力となっているのは、「自分が苦しくても、誰かが喜んでくれればいい」「誰かが助かるなら、自分が笑われたってかまわない」という純粋で真っ直ぐな気持ちです。人のために頑張ると、自分も強くなるんですね。
『王様ランキング』
原作 十日草輔 KADOKAWA「ビームコミックス」(既刊17巻)
夢は自分でつかむもの
「王様ランキング」マンガハックにて配信中
TVアニメ「王様ランキング」Blu-ray&DVD BOX 全4巻発売中
TVアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」Blu-ray&DVD BOX 上下巻発売中
© 十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会
『ハイキュー!!』『灼熱カバディ』のように、部活を通じて成長するアニメでは、『ツルネ』と『Free!』もおすすめです。
『ツルネ』の主人公・鳴宮湊は、早気(スポーツ心理学のイップスに似た弓の病気。発射準備が整う前に、意志に反して射ってしまう)が原因で離れていた弓道をやり直そうと決心。早気を克服する努力をしつつ、弓道部の仲間と県大会優勝を目指します。
『Free!』は、小学生時代に水泳仲間だった七瀬遙、橘真琴、葉月渚、松岡凜は、高校生になって再会。岩鳶高校に男子水泳部を創部し、強くなるために切磋琢磨します。
どちらも、チームと個人の間で揺らぎながら葛藤し、自分らしさを見つけていきます。
ところで、あなたがアニメを見るきっかけは何ですか?
『鬼滅の刃』の『紅蓮華』(LiSA)、『ブルーピリオド』の『群青』(YOASOBI)のように、音楽が好きだったから? インパクトのあるアクションシーンが見たかったから? 推しの声優さんが演じているから? 入り口はいろいろでしょう。見始めると、笑ったり、泣いたり、「頑張れ!」と応援したり、心を動かされるシーンやセリフに出合うと思います。
そんな時は、ちょっとストップして、誰が、誰に向かって、何のために発したセリフ(言葉)なのかを考えてみましょう。そうして、ストーリーの中心に何があるのかに注目すると、作者が伝えたいメッセージがはっきりします。
もっと知りたくなった時は、原作のマンガや小説を読んでください。アニメではカットされてしまったエピソードやキャラクターを知って、より深いメッセージに気づくでしょう。すると、また頑張る勇気がもらえると思います。
井島由佳
『ツルネ』
原作 綾野ことこ 京都アニメーション「KAエスマ文庫」(既刊3巻)
「ツルネ―風舞高校弓道部―」全13話+OVA1話/「ツルネ―つながりの一射―」全13話
劇場版「ツルネ―はじまりの一射―」松竹配給/Prime Videoほか配信
『Free!』
原案 『ハイ★スピード』 著者 おおじこうじ 京都アニメーション「KAエスマ文庫」(既刊2巻)
全37話+OVA2話/映画「ハイ☆スピード」全5作 松竹配給/Prime Video配信
井島由佳
大東文化大学社会学部社会学科専任講師、博士(学術)、公認心理師。東京家政大学大学院家政学研究科人間生活学専攻修了。専門は心理学(教育心理、発達心理、キャリア心理、マンガ心理)。ライフキャリアとマンガに関する研究を行う。主な著書は『「NARUTO」は生き方の教科書だ!』『「呪術廻戦」流自分を変える最強の方法』『「鬼滅の刃」流強い自分のつくり方』など。
写真:石山勝敏
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023-24年冬号(No.4)に掲載したものです。