BOOK
本屋ライター
和氣正幸
大好きな友だちだから、時には違う道を行くことも
『モモ』
モモとジジの友だち関係が本当にいいんです。モモと一緒にいたからジジはたくさんの物語を生み出した。ところが灰色の男たちの陰謀で、ジジは売れっ子作家に。でも、モモと会えないジジから物語は出てきません。ジジは、モモに「自分のためだけにそばにいて」と頼みますが、モモは「ジジのためにならない」と断ります。二人が違う道を行く場面がとてもせつない。大好きな友だちだから、時には一線を引いて向き合うことも必要なんですね。
『モモ』
ミヒャエル・エンデ
大島かおり訳
(岩波書店)
時間泥棒からぬすまれた時間を人間に取り返してくれた女の子・モモの不思議な物語。モモはとても聞き上手。親友のジジは、つくり話をするのが得意で、モモに話を聞いてもらっていたのだが……。
偶然の出会いから 居心地のいい関係へ
『サマーバケーションEP』は、障害のある20歳の青年が、“日常の冒険”に出かける物語です。途中で出会った人と時には道連れになったり、別れも経験します。彼は、その人たちと、もしかしたら友だちになれたかもしれません。親しくなるには、お互いに親切な心で接することが大切だと気づきます。友だちへの始まりの一歩ですね。
友だち関係にはいろいろありますが、僕が好きなのは、同じ方向を向いて、一緒に何かを楽しみ、時間を共有して居心地のいい関係。そんな仲良しが登場するのが『ペナンブラ氏の24時間書店』。本好きでもの静かな主人公が、天才的エンジニアの友だちと力を合わせて、〈本の謎〉を解き明かしながら、心地よい友だち関係をつくっていきます。読みごたえのある青春爽快エンターテインメント作品です。
『サマーバケーションEP』
古川日出男
(角川文庫)
「僕は冒険するために井の頭公園に来たんです」。生まれつき他人の顔を覚えられない「僕」は、神田川に沿って、海に向かって歩き始める。そこで出会った人たちとの交流と別れが心に響く。
『ペナンブラ氏の24時間書店』
ロビン・スローン
島村浩子訳
(創元推理文庫)
青年クレイが再就職したのは、不思議な書店だった。客がほとんど来ないのに24時間営業で、暗号で書かれた謎の本がたくさんある。クレイは、友人やコンピューターの力を借りて、謎の解明に挑む。
お互いの違いを尊重し 適度な距離感を保とう
『ジョナサンと宇宙クジラ』は、同名SF短編小説集の表題作。巨大な知的生命体の宇宙クジラと、心優しい主人公ジョナサンとの不思議な交流を描いた短編です。別れがやって来た時、ジョナサンの幸せを祈って、それを伝えるクジラのせりふがとてもいいんです。友だちにはつきものの出会いと別れの広がりを感じさせてくれます。
ミニシアターの看板犬・ジャンゴの視点で描かれる『レインコートを着た犬』では、違いから生まれる心地よい距離感のある世界が描かれています。
友だちといい関係をつくるには、お互いの違いを認めて尊重し、適度な距離感を持つことも大切だと思います。
『ジョナサンと宇宙クジラ』
ロバート・F・ヤング
伊藤典夫訳
(早川書房)
宇宙軍に入隊した青年ジョナサンは、小惑星をひとのみした宇宙クジラのお腹の中に入ってしまう。そこには美しい自然の広がる世界があり、ジョナサンは真の自分を見つけていく。
『レインコートを着た犬』
吉田篤弘
(中央公論新社)
小さな映画館「月舟シネマ」の看板犬ジャンゴは、心ひそかに「笑う犬」を目指している。映画館と十字路に立つ食堂を舞台に繰り広げられる雨と希望の物語。月舟町シリーズ3部作の完結編。
本と友だちになろう
いい友だち関係をつくるには、『モモ』のモモとジジのように、自分も相手も自立して、一人の人間として相手と向き合うことが大切だと思います。
では、自立するにはどうすればいいのでしょう。
大切なのは、一人になって自分を見つめ直し、自分のアイデンティティー(注)を確立することです。その時に役立つのが、本(読書)だと思います。
現在、ネットには情報があふれています。そこには、薄っぺらな情報、間違った情報もたくさんあります。そんな状況と比べると、完璧とは言い切れませんが、情報源としては本のほうが信用できると僕は感じています。
といっても、本だけでは足りません。例えば、『魔女』(五十嵐大介作、小学館)というマンガに、こんなエピソードがあります。
魔女見習いの少女が「なんで本を読ませてくれないの」と不満を言うと、師匠が「体験と知識は同じ量でなければいけない」というようなことを答えます。僕も、その通りだと思っています。本だけだと「頭でっかち」になる恐れがあるからです。
同じように、自分の体験だけでも不十分です。体験したことを検証(事実かどうかを証明すること)するためにも、本から得られる知識はとても大事だと考えています。
ただし、本だからいいわけではありません。「本」の中にも、SNSみたいに嘘や偏見が交ざっているからです。そこを見分けて選び取る能力も目も身につけるよう心がけるといいですね。
(注)自分が何者なのか、自分である証し。自分らしさを自覚すること。
和氣正幸
BOOKSHOP TRAVELER
和氣正幸さんが経営する「BOOKSHOP TRAVELER」は本屋のアンテナショップ。祖師ヶ谷大蔵駅近く(東京都世田谷区)にあります。
1階の店舗は、個性的な「小さな本屋さん」が100軒ほど並び、新刊本や雑貨なども販売しています。
2階の「ギャラリーと本屋」では、企画展なども開いています。
「ZINE LAB」は、本好きの人たちが集まるシェアスペース。同人誌やマガジンづくりの道具もそろっています。
和氣正幸
1985年生まれ。本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELERの店主。会社員時代の2010年にブログ「本と私の世界」(現「BOOKSHOP LOVER」)を開設して活動を開始、15年に独立。「本屋の旅人」(『本の雑誌』連載中)などいろいろなメディアに寄稿し、本と本屋に関する活動を幅広く行う。
構成:編集部 写真:江連麻紀 イラスト:くぼあやこ
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年春号(No.5)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。
シネマ
映画ライター
月永理絵
高校を卒業したての5人の女の子の生活と友情を描いた韓国映画
『子猫をお願い』
高校を卒業したての5人の女の子を描いた韓国映画です。行き場のない子猫を誰が引き受けるか、という問題を通じて女の子たちの生活や思いが描かれています。2000年頃のソウルの風景や若者たちの過ごす日常、そして友だち同士の関係が丁寧に描かれています。大学生の頃に観たこともあって、登場人物たちの年齢が自分に近く、監督も女性。韓国と日本は違うところも近いところもある。こんなに自分に近い映画があるんだとうれしくなりました。
『子猫をお願い』4Kリマスター版
監督:チョン・ジェウン
2001年/112分/韓国
Blu-ray発売中、デジタル配信中
発売・販売:ツイン
©2001 Cinema Service Co., Ltd., Masulpiri Pictures, All Rights Reserved.
みんな同じじゃないから 世界は楽しい
『タレンタイム』はマレーシアを舞台にした青春映画です。多民族国家のマレーシアでは、民族や宗教によって、それぞれのルールや考え方を持っています。ヒンドゥー教徒の男の子とイスラム教徒の女の子が恋に落ちて親から反対されたり、民族的な背景から同級生に強い対抗心を抱く子がいたり、誰もが立ちふさがる壁を前に悩みながら生きています。でも、「タレンタイム」という音楽コンテストの夜だけは特別。歌を通してみんなが一つになり、奇跡のような時間を過ごします。
アメリカの高校生活を描いた作品が『ブックスマート』。優等生でイケてない女の子二人が主人公。勉強ばかりしていた時間を卒業パーティーの一夜で取り戻そうと大暴れ。みんな見た目通りじゃないことを学びます。アメリカの今の10代のことが分かる娯楽映画。
『タレンタイム〜優しい歌』
監督:ヤスミン・アフマド
2009年/115分/マレーシア
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
監督:オリビア・ワイルド
2019年/102分/アメリカ
発売元:ロングライド
販売元:TCエンタテインメント
©2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
友だちを思う気持ちは 大人になっても変わらない
10代の皆さんが生まれていなかった時代の友だち映画も紹介しましょう。
マリリン・モンロー主演の『紳士は金髪がお好き』は、親友同士の女性二人が活躍するミュージカル映画。一人は「恋よりお金」、一人は「お金より恋」と、真逆なのにお互いの違いを認め合う関係はお手本になるのでは? K-POPのミュージックビデオでもオマージュが捧げられています。
大人の男同士の友情を描いているのが『スペース カウボーイ』。宇宙に行けなかった男たちが最後のチャンスにかける傑作娯楽映画です。仕事を通じて生まれる友情の形に、10代のあなたは何を感じるでしょうか。
『紳士は金髪がお好き』
監督:ハワード・ホークス
1953年/92分/アメリカ
Blu-ray発売中/
デジタル配信中(購入/レンタル)
発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ
©2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『スペース カウボーイ』
監督:クリント・イーストウッド
2000年/130分/アメリカ
デジタル配信中/Blu-ray 2,619円(税込)
DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2000 Village Roadshow Films (BVI) Limited.
©2001 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
「友だち」という関係について、さらに考えてみよう
私が映画を好きになったのは中学生の頃。青森に住んでいたので、友だちと映画館に行く機会はあまりなく、テレビのロードショー枠で、『スター・ウォーズ』などを観たり、本や雑誌で映画の情報を読んだりしていました。
高校生になると、アメリカ映画とは違う映画の世界に興味を持つようになり、東京のミニシアターに憧れました。
映画の中では、今の自分とは全く違う国や環境で暮らす、さまざまな人に会うことができます。冊子で紹介した映画も、中高生の皆さんに、こんな友だちづきあいもあるんだと知ってほしくて選んだものです。
冊子では紹介しきれませんでしたが、友だちとの関係が描かれた映画は、ほかにもたくさんあります。いくつか紹介しましょう。
『グッバイ、サマー』は、14歳の少年二人が、夏休みに旅に出るロードムービー(車や列車などに乗って旅をしながら進んでいく映画)です。
内気な少年ダニエルと、目立ちたがり屋の転校生テオは、クラスでは少し浮いた存在。二人は、家庭環境の不満や、友だち、恋愛のことで悩んでいて、そんなことを話すうちに意気投合します。そうして迎えた夏休み、自分たちで改造した車で旅に出ることに。ログハウスに変身する車や、旅先で出会う人たちとのエピソードがおとぎ話のようでファンタジックですが、これ、実話が元になっているんです。
切ない話も出てきますが、14歳の少年たちが友情をどのようにつむいでいくのか、その過程もよく分かる作品です。
友情だけを描いた作品ではありませんが、タイプが違う二人の女性を描いた『あのこは貴族』もおすすめです。
原作は山内マリコさんの人気小説。東京のお嬢さまとして生まれ育った華子を門脇麦さん、富山県に生まれ、猛勉強して有名大学に進学したものの、学費が払えずに中退をすることになった美紀を水原希子さんが演じています。
二人は、ある男性を介して出会い、世の中には自分とこんなにも違う生き方があるんだということを知り、自分はどう生きていきたいのだろうと人生を見つめ直します。友情とは少し違う関係ですが、それぞれを取り巻く人間関係が丁寧に描かれていて、引き込まれます。
『あのこは貴族』
監督:岨手由貴子
2020年/124分/日本
配給:東京テアトル=バンダイナムコアーツ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
男性の友情を描いているのが『Our Friend アワー・フレンド』です。
ジャーナリストのマットと、舞台女優をしていた妻のニコルは、二人の娘を育てながら楽しい毎日を過ごしていました。ところが、ニコルが末期がんの宣告を受けたことから、日常は変わってしまいます。妻の介護と子育て、家事に奮闘するマットに救いの手を差し伸べたのは、二人の親友デインでした。
デインは、夫婦を献身的に支え、三人は希望のようなものを見つけていきます。
アメリカの雑誌『エスクァイア』に掲載され、話題を集めたエッセーを元に作られた映画。舞台になったのは、アラバマ州・フェアホープ。海辺の小さな街で生活する三人の生活や心の動きがリアルに描かれた、実話ならではの感動的な友だちの物語です。
『Our Friend アワー・フレンド』
監督:ガブリエラ・カウパースウェイト
2019年/126分/アメリカ
©BBP Friend, LLC – 2020
BS10スターチャンネルで3/29(金)夕方 5:45から放送
動画配信サービスPrime Videoの「スターチャンネルEX」でも配信中
最後に、少し変わった映画を紹介します。
『ぼくの名前はズッキーニ』は、ストップモーション・アニメーションといって、人形などの立体物をコマ撮りして制作した映画。孤児院の子どもたちの友情を描いています。
味わい深い人形の動きを追うだけでも楽しいのですが、社会の問題も描いています。主人公の少年ズッキーニは、アルコール依存症の母親と二人暮らしをしていましたが、母親が死んで孤児院に入ることになります。孤児院には、両親を失った子、親から虐待を受けていた子など、さまざまな事情を抱えた子どもたちがやってきます。彼らは最初、人とつきあうことがうまくできませんが、施設で一緒に過ごしていくうちに相手を思いやる気持ちが芽生え、人と一緒に過ごす素晴らしさに気づいていきます。
友だちの映画はほかにもまだまだたくさんあります。
自分とは違う、友だちとのつきあい方を発見したり、遠い国のユース世代のライフスタイルを見ることができたり、大人の友情に感動したりすることができるのも、映画ならでは。
いろいろな映画を観て、「マイ・ともだちストーリー」を探してみてください。
月永理絵
『グッバイ、サマー』
監督:ミシェル・ゴンドリー
2015年/104分/フランス
『ぼくの名前はズッキーニ』
監督:クロード・バラス
2016年/66分/スイス・フランス
月永理絵
映画ライター。新聞や雑誌で映画を紹介するほか、書籍や映画パンフレットの編集なども。映画と酒の小雑誌『映画横丁』の編集人でもある。『週刊文春』「CREA.web」などで映画評を連載中。
写真:石山勝敏 イラスト:くぼあやこ
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年春号(No.5)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。