[ 特集 ]私のブレイクスルー

ブレイクするのは、明日か、1年後か、進学後かもしれない。
だから、今の頑張りの全てが、将来ブレイクするための準備です。
元ラグビー日本代表で、現在はスポーツ教育を研究する
平尾剛さんにスポーツとブレイクについて聞きました。

スポーツでブレイクするなんて自分には無理

 スポーツの面白さは、「できなかったことができるようになる」ことにあります。例えば、なわとびが100回べた。昨日より速く走れた。できるようになったのは、練習で小さなブレイクスルーを積み重ねたから。できることが増えるとポジティブな感情が生まれ、爽快そうかいな気分に。それは、アスリートに限らず、貴重な体験になります。

部活の練習、何になるの?

 なかなか上達しない時、「筋力不足かな?」など原因を探ったり、トレーニングを工夫しますよね。このようにすぐに答えの出ない問いを考え続ける能力を「ネガティブ・ケイパビリティ」といいます。練習することで将来のステップアップにも必要なこうした能力が身に付くようになります。

向いているスポーツが分かりません

 基本的に、向き・不向きはないので、とにかく始めてみましょう。大切なのは、良い指導者を見つけること。体の動かし方や道具の使い方などを、自ら実践しながら説明できる人。できれば、教えている競技の経験者か、専門家がいいですね。分かりやすく説明してもらうと、どんなスポーツでも楽しいし、上達もします。

試合で勝てません

 試合で得られるのは、勝ち負けの結果だけではありません。試合には、具体的な目標設定をして臨みましょう。例えばラグビーなら、「ワントライの5点は絶対に取ろう」などの目標をチームで共有します。ノーサイドになった時、50対5のたいで負けたとしても、その5点には大きな価値がある。負け試合であっても、目標が達成できれば、次につながるフィードバックが得られるので、ステップアップに生かせます。

結果が出ない時は?

 「頑張らなきゃ」と力み過ぎると、あせりが出たり、視野が狭くなったり、パフォーマンスが落ちたりします。無理してけがをしたら、将来ブレイクするはずの未来もなくなります。そんな時はスポーツから離れてみましょう。「できない」と判断するのは弱さではなく、本当の勇気。離れてみることで、次に進む準備ができることも。

ブレイクする選手ってどんなタイプ?

 指導者の話をよく聞き、きちんと理解した上で自分なりに工夫して、それを練習で試せる人です。そして、失敗してもめげないで、何度も挑戦する強い気持ちを持った人。こういう人は、「もう少しで壁を突破できる」というところを楽しめるので、挑戦するたびにブレイクのチャンスが広がります。

チームと自分、どちらを優先すればいい?

 チームのために自分のやりたいプレーをおさえるのも、自分の活躍を優先するのも、どちらも不正解。個人かチームか、大いに悩んで、両方をバランスよく成立させられる落としどころを探しましょう。

 悩んだ時、頭を整理するのに役立つのがノート。私も含め多くのトップアスリートが実践していて、練習メニューや試合結果、チーム内のもめごとなど、何でも記録します。一人になって自分に向き合う時間も、ステップアップには必要です。

ブレイクするために必要なことは?

 自分で限界をつくったり、立ち止まったりしないこと。例えば、大会で優勝すると、「今までの努力は間違っていなかった」というごたえがあり、ブレイクスルーを実感できる成功体験となります。でもそこはゴールではなく、次のブレイクに向かう準備の始まり。成功体験のスタイルにこだわると、進歩できずに終わってしまうことも。ブレイクに必要なのは、そこへ至るプロセスです。柔軟じゅうなんな姿勢で挑戦を繰り返しながら、前進し続けましょう。

 まず初めに言いたいのは、「スポーツができるようにならなくても、楽しめればいい」ということ。
例えば、バスケットボールのように練習しなければ上達しない競技は、経験者がうまいのが当然です。体育の授業で君だけバスケをうまくできなかったとしたら、それは経験者に比べて練習時間が圧倒的に少ないから。劣っているわけでもないし、「みんなに迷惑をかけているかも」なんて心配する必要はないんです。

「楽しそうだな」「うまくなりたいな」と思ったら、ボールを持って、ドリブルの練習をしてみてください。少しでも練習をしたら、最初の頃よりうまくなっているはず。そして、できるようになったことを自分で認めてあげましょう。「できた!」という自信は、運動をするモチベーションになり、苦手意識も軽くしてくれます。

 そもそも、自分に「苦手」というレッテルを貼ってしまうのはなぜだと思いますか? それは、「他者の目」を気にするようになったからです。

 体育の授業では、クラスメートの前で運動するので、「できる/できない」が分かりやすく、周りの目が気になります。そして、人よりうまくできないと、苦手と思い込んでしまうんですね。

 また、「先天的な身体能力に差がある」と思っている人が多いようですが、その差が重要になるのは、トップアスリートになった時ぐらい。10代の頃の“差”なんて、あってないようなもの。例えば、スペインのサッカー界では、育成年代とされるのは23歳以下。若手世代の伸びしろに余裕を持って期待をしているのです。

 君の能力や才能だって、いつブレイクするかは分からない。だから、人を基準にして苦手と思い込むのはやめにしましょう。

 できるようになったことを数えて、自分自身の成長を実感するよう心がけるといい。自分の成長に興味が持てるようになれば、スポーツを楽しむことができているしるし。君の中では、すでにステップアップを果たしています。その時に得られる達成感や突破力が、スポーツをする醍醐味なんです。

ひらつよし

1975年大阪府出身。神戸親和大学教育学部スポーツ教育学科教授。専門はスポーツ教育学、身体論。同志社大学、三菱自動車工業京都、神戸製鋼コベルコスティーラーズに所属、99年ラグビーW杯日本代表。度重なるけががきっかけとなって研究の道へ。著書に『近くて遠いこの身体』『スポーツ3.0』など。

写真:桂 伸也

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023-24年冬号(No.4)に掲載したものです。