[ 特集 ]ともだちの話をしよう

友だちとは、
お互いを認め合える関係

 そもそも友だちって何でしょう? 今は、学校や塾で知り合うリアルな友だちもいれば、SNSやインターネットゲームだけでつきあうバーチャルな友だちもいます。あり方もつきあい方もさまざまだから、友だちの定義(言葉ではっきり決めること)もぼんやりしています。

 そんな中で私が伝えたいのは、「友だちと仲間は違う」ということです。

 まず「友だち」です。私は、友だちとは「あなたは好きなように自由に生きていいよ」という気持ちでお互いを認め合える関係だと思っています。

 考え方や好きなことが違っていても、仲良くできる存在です。お互いに信頼しているので、意見の違いがあっても「それもアリだね」と、面白がったり楽しんだりできるのです。あなたを理解して、ありのままを受け入れ、時には心の支えにもなってくれるのが友だち。そういう人に出会ったら、大切につきあっていきたいですね。

 次に「仲間」。仲間の場合は、「自由に生きていいよ」とばかりは言えません。クラスメートや部活動の部員がそうですね。合唱コンクールや運動会で、みんなが力を合わせて一つのことに向かっていこうとしている時に、クラスの和を乱すような自分勝手な言動をする人がいると、なかなかまとまらなくなってしまいます。仲間同士は、お互いに責任を負わなければならない側面もあるので、友だちよりちょっと重たい関係ですね。

 「仲間」は大切だけど、生きる支えになってくれるのは、自分自身が好きに生きていく時にそばにいてくれるような「友だち」だと、私は考えています。

一人ぼっちを選んでもさびしくない

 最近は、「友だちはいらない。一人でいるほうが楽しい」という人も増えています。人によって、大切にしている考え方が違うので、友だちは絶対に必要だとは言えません。学校に友だちがいなくても、例えば、共通のし仲間とインターネットでつながることもできるので、さびしいと感じていないかもしれません。

 ただ、友だちがいると、あなたとは違うものの見方や考え方を知ることができ、世界が広がります。また、いろいろな人と出会う機会が増えるので、それだけ多くのチャンスにも恵まれることは確かです。

成長すれば、
友だち関係も変わる

 友だち関係で大事なことは、自分の気持ちをきちんと伝えて理解してもらうこと。一緒にいて楽しくて、元気になれることです。

 例えば、「嫌われたくないから」と相手に合わせたり、本当は嫌なのに「嫌だ」と言えなくなったり、相手に気を使って疲れたり—。これでは楽しくないですね。もし、気持ちのいい関係でなくなったのなら、無理に友だち関係を続ける必要はありません。

 一度友だちになったからといって、「友だち関係を守ろう」と頑張らなくていいんです。

 10代の頃は、友だちに限らず、周りの人たち(仲間はもちろん、親や先生も)とつきあって、人間関係を学びながら成長している途中です。あなたも、友だちも、どんどん変化しています。そして、成長とともに友だち関係も変わっていきます。

 距離ができてしまった友だちとは、だんだんと離れていくのが自然です。友だちじゃなくなっても悲しむことはありません。きっと、次の出会いがあって、新しい友だちと気持ちいい関係がつくれるはずです。

(構成:編集部)

 上の記事でも話したように、友だちとは、「あなたは好きなように自由に生きていいよ」という気持ちでお互いを認め合える関係です。
 では、どうすればそういう友だちができるのでしょうか。
 友だちは、近くにいるうちに何となく親しくなって、いつの間にか友だちになっているということがほとんどです。
 そばにいると、体温を感じ、心を感じられます。相手の表情を見たり、身体的な触れ合いを通じて、時間をかけて友だち関係になっていきます。面と向かって相手を知ることができるという安心感があるから、信頼し合えるようになるんですね。
 私が指導する塾では、普段は、勉強をして、顔を合わせるぐらいのつきあいしかありません。でも、泊まりがけの合宿を経験した後は、関係性が大きく変わります。以前より仲良くなって、会話の内容も、ちょっとおせっかいなものになったりします。その変化を見ると、「友だちになったんだね」と実感します。
 一方で、SNSやインターネットゲームを通じて知り合う友だちもいます。
 この場合は、身体的な触れ合いがなく、自然発生的な関係ではありません。それでも親しくなりたいと思うのは、なぜでしょう。
 そこには、例えば、「フォロワー数を増やしたい」「ゲームの対戦相手が必要」というような、利害関係(利益と損害が生まれる関係)や損得感情(自分にとって得か損かを考える気持ち)が働いているのかもしれません。こうした関係は、友だちだと思っていても長続きはしないことがあります。つながりが弱く、揺らぎやすい関係だからです。

 今、「友だちをつくりたい」と思っている人には、「友だちをつくることを目的にしないほうがいい」というアドバイスを送ります。目的にすると、やはり損得感情が生まれてしまうからです。
 また、「学校で友だちができない」と悩んでいる人もいるでしょう。学校での出会いは、偶然でしかありません。そこで友だちができないのは、ただ運が悪い(環境が整っていなかったり、タイミングじゃなかったりする)だけ。あなたのせいではないから、落ち込んだり、あきらめたりしなくていいんです。
 学校で出会いがないのなら、学校以外に自分が安心できる場所を探してみましょう。
 10代の頃は、身近な世界が全てと思いがちですが、学校はとても狭い世界です。学校にこだわらず、もっと広い視野を持ちましょう。あせらなくて大丈夫。世界はすごく広い。そこには、これからあなたと出会う友だちがきっといます。

鳥羽和久さんおすすめの「友だち本」

『1Rラウンド1分34秒』
町屋良平
(新潮文庫)

自身の若い身体を持て余していたプロボクサーの「ぼく」が、「友だち」からカメラで撮られることを通して自分の言葉を見出していく物語。友だちとの出会いで自身の言葉が変容していくことは、友だちとの出会いの中で最大の幸福のひとつ。

(ちくまプリマー新書)

鳥羽とばかずひさ
1976年福岡県生まれ。教育者、作家。専門は日本文学、精神分析。㈱寺子屋ネット福岡代表取締役などを務め、150人余りの小中高生の学習指導に携わる。『君は君の人生の主役になれ』など著書多数。

イラスト:caco

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年春号(No.5)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。