宝塚歌劇団雪組トップスターとして活躍し、退団後も舞台を中心に活動する水夏希さん。いつも新しいことに挑戦したり、輝いていられるのはなぜですか?

宝塚歌劇団にいた頃は、いつも同じ人たちと舞台をつくっていましたが、退団後に出演する舞台では、初めましての人ばかり。新しい人間関係を築くところから舞台づくりは始まります。
もちろん最初は緊張します。そこで私は、共演する俳優さんのことを調べておくようにしています。登山が好きな人なら「山登りが好きなんですよね?」と、自分が知りたいと思ったことを聞いてみます。
話しかけられて不快に思う人はいません。話しかけられるのを待っている人もいると思うので、思い切って話しかけてみましょう。話しかけてイヤそうにされたら…と思って勇気の出ない人もいるかもしれませんね。でも、そこは恐れないで。うまくいかなくても、失敗したと思って自分を責めるのではなく、「このパターンがダメだっただけ」と割り切って次に行けば、また別の可能性が広がります。
大切なのは、失敗したとしても、そのまま終わらせないこと。ネガティブなところで終わったらイヤな記憶になってしまうし、自分を責めて心が閉じていってしまうことも。
そう言う私も、実はネガティブの出身です(笑)。プラスに物事を捉えるクセをつけていったんですよ。


中学生の頃はいわゆる帰宅部で、家でよく勉強していました。仲のよかった子が成績がよく、理由を聞いたら「家で勉強している」って言うんです。私も勉強をするようにしたらホントに成績が上がってきて。
やる気満々で高校に行ったら、ミュージカル部のキラキラ感に魅了され、そこからはミュージカルにどっぷり。さらに『ベルサイユのばら』で宝塚歌劇に出合い、私の舞台人生が始まりました。
宝塚音楽学校は、普通の学校とは違い、朝から晩まで、ダンス、音楽、演劇などの芸事を学びます。私は受験の前に初めてバレエを始めたのですが、踊るってなんて楽しいんだろうと。元々運動が得意だったこともありますが、やればやるほど上達していくので、より楽しくなっていきました。
勉強でもなんでも、そのワクワクする気持ちを逃がさないことが大事。誰かから「やりなさい」と言われてやったことより、自分がワクワクして「やりたい」と思ってやったことはうまくいくし、続きます。
「私はこれが好きなんだ」と感じる何かに出合ったら、そのワクワクの方向に自分を向けてやり続ける。たとえ失敗しても、それが自分を輝かせることにつながるし、これからの人生できっと役立ちます。

珍しいケースと言われますが、私は宝塚時代に月→花→宙→雪と、3度の組替えを経験しました。組ごとにカラーもやり方も違います。その組に慣れたかなと思った頃に、また1からのスタート。その時はショックでしたが、その組替えもポジティブに捉えてやってきました。
トップになることができたのは、そうやって自分を認めながら、ワクワクすることをし続けた結果なのかなと思っています。もちろんお客さまからの拍手にも勇気づけられましたし、先輩や後輩たちにも支えられてのことです。
皆さんも、恐れないでどんどん心を開いて、自分の「好き」を見つけてください。ワクワクするほうへ進んでみましょう。そんな気持ちがあれば、新しいステージできっと輝けると思います。



話しかけたいけど、声をかけられない。そんな時はどうすればいい?
「話しかけてオーラ」を出しましょう。「話しかけて!」って、心の中で念じるんです。そういう気持ちって、絶対に相手に伝わります。
大人の世界の話になりますが、「タンゴ」を知っていますか? 19世紀後半にアルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで起こった、4分の2拍子系の音楽とダンスのこと。タンゴは男女がペアで踊ることが多いのですが、そこにはちょっとしたルールがあって、女性から誘ってはいけないんですね。だから女性は、「踊りたいな」と思っても誘われるのを待つのですが、そんな時にモジモジしていたら相手も誘いづらい。でも、「誘って、誘って」と念じていると、相手にも伝わるんです。
人間関係も同じだと思います。念じたり、思いを飛ばすのも、いい関係をつくる第一歩。話してみたい人がいたら、「しゃべりたいな」「話しかけて」って思いながら見ていたら、思いは絶対に通じます。ポジティブな思いはどんどん飛ばしましょう。
人と話す時に大切にしていることは?
「言葉にしないと伝わらない」ということです。
おくゆかしさは日本人の良いところではあるけど、他人の気持ちを察するのには限界があります。「話しかけてアピール」もいいけれど、本当に伝えたいことはきちんと言葉にしないと伝わらない。私はあなたじゃないし、あなたは私じゃない。相手は自分じゃないからです。
これは宝塚時代に学んだこと。40人以上の組子がいて、さらに大勢のスタッフの方と一緒に一つの作品を作り上げていくので、言葉にしないと分からないことがたくさんありました。誰かが「普通はこうでしょ」と言っても、それはその人の「普通」でしかない。その「普通」が何を指すのかを言葉にして進めていかないとうまくいきません。
私には双子の妹がいて、海外で外国人の夫と生活しているのですが、「自分の『普通』が伝わらない」と言っていました。『分かんないよ、僕には』って言われちゃうんですって。育ってきた環境もきょうだいの関係も違うのだから、分かってもらえなくて当たり前。だから妹は、「分かってくれるよね?」と期待する前に、きちんと伝えるようになったそうです。

宝塚に入ったきっかけは?
『ベルサイユのばら』です。「ベルばら」を見て、「この花がいっぱいの美しい世界はなんだ!?」と、衝撃を受けて、「ここに入りたい!」と思いました。
同級生が宝塚音楽学校を受けるというので、「私も受ける!」と受験しました。その時は不合格でしたが、「1年間勉強するので、受験させてください」と親にお願いしました。好きなこと自由にやらせてくれる親で、反対はされませんでした。でも、最近分かったのですが、母は小さい頃から演劇が好きだったらしいです。
トップスターになるまでに支えてくれたものは?
あきらなかったことかな。
「あきらめなければ、何でも叶う」わけじゃなくて、大人になると、どんなに努力しても手に入らないことって出てきます。でも、中高生、学生のうちは、そんなことを考えずに、夢を追いかけたらいいと思います。
さっきYouTubeで、赤ちゃんが歩き出す瞬間の動画を見たんです。始めは、立ち上がっても、立っていられなくて転んでしまう。でも、何度も立ち上がろうとする。みんな、最初は立てなくても、あきらめないで立つ練習をしたから、立っていられるんですよね。
忘れられない作品は?
『マリポーサの花』(2008年)かな。(注:水さんが雪組でトップスターをつとめていた時代の作品。作・演出/正塚晴彦)
公演中にけがをしていたんです。劇中で主人公が歌う曲に「悲しみは耐えられる。痛みには慣れていく」っていう歌詞があって。めっちゃ痛いけど、大丈夫と思って乗り越えました。悲しみとか苦しみとかつらさも仲間がいたから、「一人じゃないよ」って思えたし、目の前にはお客さまがいたから耐えられたんだと思います。
たとえ今分かり合える人がいなかったとしても、「自分は孤独だ」とか「一人だ」って思う必要はないんじゃないかな。誰かがどこかで手を差しのべてくれる。そう思っていてほしいです。
先輩から言われた印象に残っている言葉は?
宝塚には「新人公演」という制度があります。公演中に一度、下級生たちだけで本公演を演じる機会が与えられるのです。私が新人公演に出ていた頃に、先輩から言われたのが、「今のうちにハメを外しときな」ということ。
だんだん完成度の高いものを求められるようになる。だから、「今のうちに失敗しときなよ」ってことだと思うんです。
「失敗できない」と思ったら行き詰まっちゃうから、いつだって「もう失敗できないな」って思わないようにしています。むしろ、宝塚を退団してからのほうが「失敗してもいいや」「今のうちだな、失敗するのって」って思っています。
宝塚にいた頃の私は、もちろん完璧じゃなかったですけど、完璧を目指していたようなところがあったんです。でも、完璧を目指せば目指すほど、自分の可能性を狭めて自分が苦しくなっていくようになっていました。それを取りはらうのが大変だったから、余計にそう思いますね。
私が完璧を目指していた時代に、「ま、いっか」っていう言葉を額に入れて部屋に飾っているという下級生がいたんです。その時は、「『ま、いっか』って何? それはよくない」と思ったのですか、今は「ま、いっか」ぐらいがいいんだよって思います(笑)。
でも、私がその時「ま、いっか」と思っていたら、また違った人生になっていたから、私は自分のやり方のままでいいです。
ただ、完璧なんて求める必要はないし、自分の考えが変わってもいいんだってことは、心にとめておいてほしいと思います。

中高生のみんなへ
中高生の頃って、何も考えずに、ただ好きなことだけをやっていました。よくぞ自分勝手に過ごしたな、と思います。でも、もっと冒険してもよかったんじゃない? とは思うかな。私はミュージカルにどっぷりでしたけど、高校の中だけだったので、もっと外の世界に遊びに行くとかね。
今回のテーマは「新しいステージで輝く」こと。そして、「もっとジブンを好きになる」。私も、もっと自分を好きになりたい。だから、ほめてあげる。ちっちゃいことでも何でも、自分で自分をほめてあげる。だって、あなたと同じ人間は一人もいないんですよ。誰もあなたにはなれない。だから、あなたにしかない何かが絶対にある。自分が好きなものとか楽しくなること、自分の「ワクワク」を見つけてほしいなと思いますね。
(構成:編集部)
水 夏希
水 夏希さん
千葉県出身。元宝塚歌劇団雪組の男役トップスター。1993年入団後、入団3年目で新人公演の主役に選ばれる。『ベルサイユのばら2001』ではオスカル役などを演じ、2007年『エリザベート』で宝塚大劇場初主演。2010年に退団した後は、ミュージカルや演劇など幅広い舞台で活躍を続け、さまざまな役柄に挑戦している。

写真:吉原朱美
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2026年春号(No.13)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。



























