[ 特集 ]私たちの「Love&Peace」

音楽が伝えるメッセージ、どうやって聴けばいいの?

平和な音楽ってあるの?

平和な音楽って、どんな音楽なのでしょうか。小さく静か? ゆっくりしたメロディー?

音楽そのものに、戦争を止めたり、平和をもたらす力はありません。平和をうたう音楽家として、坂本さかもとりゅういちジョン・レノンボブ・ディランの名前があげられますが、彼らの生きる姿勢、歌が生まれた背景や歌詞が平和を感じさせるということでしょう。

僕も関わった教科書『高校生の音楽1』に坂本さんは、「耳を傾ける行為が、音楽なのです」と書いています。受動的に音を「聞く(hear)」のではなく、音楽が語っていることに心を傾けて「聴く(listen)」ことが「音楽」なのだというのです。

音楽が語るものや背景にまで耳を傾けて、音楽の中の「平和」を探してみましょう。

音楽が禁止されていた時代

音楽を聴く時、私たちは無意識にいろいろな意味を付けてしまいます。例えば大きな音のダイナミックな音楽は「戦闘的」というイメージを持ちますが、そうとばかりもいえません。1969年にアメリカで行われた野外コンサート「ウッドストック・フェスティバル」で、ジミ・ヘンドリックスは、アメリカ国歌を爆発的な音量のギターで演奏しました。当時はベトナム戦争下で、若者たちを中心に反戦運動が高まっていて、このギターの音で戦争の状況を表現し、平和を喚起したのです。ベトナム戦争を想像することはできなくても、音楽の中に戦争のあとが残っているのです。

『フリーホイーリン』1963年
ボブ・ディラン

1960年代に反戦・反体制歌でポピュラー音楽に大きな影響を与えたボブ・ディラン。代表作「風に吹かれて」を含む最も人気の高いアルバム。2016年にノーベル文学賞が授与された。

©ソニー・ミュージックレーベルズ SICP-30472

音楽が禁止されていた時代もありました。太平洋戦争中、日本ではジャズなどのアメリカやイギリスの音楽は「敵性音楽」とされ、演奏することも聴くことも禁止され、戦意を高める歌や音楽がかけられました。

「いい音楽なのに、なぜ聴いてはいけないの?」。そう思うのは、今あなたが好きな音楽を自由に楽しめているからです。

ジョン・レノンは「イマジン」で「誰もが争わず、みんなで分かち合う世界を想像しよう」と歌いました。皆さんも想像してみてください。音楽のない世界を。好きな音楽やアイドル、コミック、スポーツ、自然を楽しむことを奪われた世界を。好きなアーティストの曲に心を揺さぶられることもないし、合唱や合奏をして心を通わせる体験もできない。

『CHASM キャズム2004年
坂本龍一

アルバム1曲目の「アンダークールド」は、9.11を経て9年ぶりにリリースされた反戦歌。「ちょっとクールダウンしてよ」のメッセージ。

提供:ワーナーミュージック・ジャパン WPCL-10072

何かが「ある」ことがあたりまえになると、「ない」ことを忘れてしまうものです。日本では身近に戦争が「ない」のが日常ですが、今この時も戦争をしている国が「ある」ことを想像し、感じることで平和に近づけるのではないでしょうか。

音楽は生きている

僕は毎年大学の年度初めの授業では、50年前の曲をみんなで聴きます。今年は1973年の音楽でした。ピンク・フロイド『狂気(The Dark Side of the Moon)』というアルバムが世界中で売れ、R&Bが流行りました。ウィルソン・ピケット「ドント・ノック・マイ・ラヴ」マーヴィン・ゲイダイアナ・ロスがカバーしてヒットしましたが、これは「8時だョ! 全員集合」「ドリフの早口ことば」の元になった曲です。当時の子供たちは、知らず知らずのうちにアフリカの音楽に親しんでいたんですね。

『イマジン』1971年
ジョン・レノン

音楽史に残る名曲として、歌い継がれている名曲「イマジン」を含むアルバム。ビートルズ解散後は、ソロ活動や妻オノ・ヨーコとの共作などを行っていたが、1980年、暴漢によって射殺された。

©ユニバーサルミュージック UICY15760

50年前の音楽でもいいし、親や祖父母の生まれた時代の音楽に耳を傾けてください。今も生きている音楽があることを感じるのではないでしょうか。

音楽には始まりと終わりがあり、一度演奏されるたびにその命を終えます。これは人の生と死のようでもあります。そして、音楽は誰かが演奏することで別のものとして生き返ります。

同じ音楽を聴いても捉え方が違い、共有はできないかもしれません。でも、それが音楽で、人のあり方も同じ。一曲の音楽、一枚のアルバムの命に耳を傾け、感じ取ってほしいと思います。

ぬま純一じゅんいち
早稲田大学文学学術院教授。音楽・文化批評家、詩人。音楽を中心に、文学、映画など他分野と音との関わりを探る批評を行っている。エッセーに『ミニマル・ミュージック』『音楽に自然を聴く』『映画に耳を』、創作に『sotto』『しっぽがない』『ふりかえる日、日』などがある。

写真:石山勝敏

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年夏号(No.2)に掲載したものです。