自分の中の「ラブ&ピース」を見つけよう
小学校の頃にいじめられていたりして、自己肯定感が低い子供でした。でも、「こんな自分だけど、何か役に立ちたい」「日常で自分をいやし、救ってくれた地球や自然に貢献できることがしたい」と考えるようになりました。砂漠に木を植えたり、植物を作る研究をすることを10代の頃は夢見ていました。
中学からは女子校に進み、いじめられることはなくなりましたが、自分がクラスになじめない感覚があって、楽しい10代ではなかったですね。言いようのない孤独感を埋めるように読書にのめり込みました。
「愛のある仕事がしたい」
一浪して東京大学薬学部に入りましたが、卒業後は10代で目指していたのとは全く違う道に進みました。就職したのは広告会社ですし、退職後、エッセーを連載したり、映画を撮ったり脚本を書いたり、演出したりいろんなことをやってきましたが、この10年はずっと絵を描いています。
うまく描きたいという気持ちは全くなく、ただ、見てくれた人が明るい気持ちになる絵を描きたい。海や山など自然からもらうエネルギーを転写するように作品を作っています。その核には、「愛のある仕事がしたい」という想いがあります。
ある展覧会で、私の絵を見て涙を流している人に出会い、驚きました。理由を聞いたらなぜだか分からないとおっしゃっていました。私は文章を書く仕事もしていますが、言葉では伝わらないバイブレーションが絵だと伝わるのかなと思った瞬間でした。ハグや握手のようにね。
一人一人がハッピーなら戦いは起きない
絵って自分を知るための一つのツールでもあると思うんです。「好きだな」と思う絵があったら、「なんで好きなんだろう?」と自分に聞いてみる。それが海を描いた絵なら、「私、海が好きなんだ」と自分の好みや感覚に気づけたりする。この色が好きなんだなとか、窓のモチーフが好きなんだな、風が欲しいのかな? とか。絵をきっかけに自分との対話が生まれるんです。
そうやって“自分に寄り添うこと”は、自分を大事にする、愛すること。自分の中の「ラブ&ピース」をつくり出せたら、それぞれの存在が愛なんです。そして、その集合体がまた大きな愛になる。そのためにも、まずは自分を大事にして、対話して、自分を愛することが必要なんだと思います。
その作業には正解やゴールはありません。世の中には答えがたくさんあって、絶対はありません。だから、誰かから言われたことを全て真に受けてしまわないで、ネットで検索したり、本を読んだり、意見を交換してみたり、自分なりにリサーチすることがこれからは必須かなと。そうやって多角的に見つめた中から自分の中に生まれた一つの見解が、新しい未来をつくっていくのだと思います。
一人一人が自分はハッピーと思うことができたら、人は戦わないと思うんです。だから、人からいじめられたり攻撃されたりした時は、がまんしないで、自分の「ラブ&ピース」のためにも逃げる。逃げることもすごく前向きな選択だから。自分を尊重することができれば、相手も尊重できる。そういう関係性が、世界平和につながるのだと私は信じています。
大宮エリー
作家、画家。映画『海でのはなし。』監督。著書に『生きるコント』(文春文庫)『なんとか生きてますッ』(新潮文庫)『なんでこうなるのッ?!』(毎日新聞出版)など。2016年に十和田市現代美術館で個展。22年には瀬戸内国際芸術祭に出展作家として参加。作品「フラワーフェアリーダンサーズ」「光と内省のベンチ」が犬島に設置される。ロンドン、パリ、香港、ミラノでも個展を開く。
Photo : Tatsuo Harada/bungeishunju
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年夏号(No.2)に掲載したものです。