[ 特集 ]ミュージアムに行こう!

アートをかんしょうする時は、自分の目や感覚で作品と向き合いましょう。どこを見たらいいのかなんて、難しく考えないで、自分の好きなように見てください。美術館なら、たくさん飾られている作品の中で、自分が気に入ったり、気になったりした作品に近づいたり、角度を変えたりして見てみましょう。じっくり観察していると、きっと作品から感じとれることが出てきます。

人が一つのアート作品を見る時間は、10数秒が平均だといわれています。長く見ることって、意外と難しいのです。でもさらっと見て終わりにしないで、全体を見たり、細部に注目したり。じっくり見ていると、いろいろ面白い発見がありますよ。

アートを見ることが、直接何かに役立つわけではありません。でも、いろいろな作品を見ていると、共感したり、感動したり、毎日の生活にいろどりが出てきます。また、アートを見て、自分が常識だと思っていたことが揺さぶられたり、くつがえる体験をすることで、ものの見方が広がります。これらは、勉強したり、友だちや家族と話したり、これからのあなたのものさしになっていきます。

アーティストは「絵を描いている人」や「ものをつくっている人」とは限りません。自分だけの答えを探している人はだれもがアーティスト。

花はアートの作品にあたります。

花の根元には大きな丸いタネがあります。タネの中には「興味」や「好奇心」「疑問」が詰まっています。これがアート活動の源になっています。

タネからはたくさんの根が四方八方に伸びていますが、一つにつながっています。

一つの作品を集中してよく見てみよう。目だけでなく、五感を使って匂いや音、感触など体全体の感覚を使って感じ取って。じっくり観察します。

どんなことでもいいから、見たり、感じたことをあげていきます。紙に書いたり、ノートやスマホにメモしてもOK。

「人物が描かれている」「色が鮮やかだ」「緑色が気になる」「力強い」など、1時間くらい見ていると、たくさんの感想が出てきます。最初は20個。慣れてきたら50個を書き出してみよう。
目指せ50個!

その作品が作られた時代や、場面を想像してみよう。描かれていることだけでなく、描かれていないことにも注目してみよう。作中の人物やアーティストの立場になって見るのもおすすめ。

・好きな作品が分かってくる
・ものを見たり、考えたりする時の「自分のものさし」が変わる
・アーティストに興味がわいてきたら、調べてみよう
・見つかった自分だけの答えや考えを大切にしよう

 中学生になって嫌いになる教科の第1位は、美術だそうです。小学校時代は図工が好きな子どもが多いのに、中学生になると「美術は苦手」という人が増えてしまうのだとか。中学校や高校で美術を教えていた私としてはとても残念なこと。中高生のみんなには、自分の視点でアート作品を見たり、自分なりのものの見方や感じる心を大切にしてほしくて、出張授業やワークショップを始めました。

 「ミュージアムに行こう!」特集では、アート作品の「アウトプット鑑賞」を紹介しました。アウトプット鑑賞をして、自分が気づいたことや考えたことを書いてみると、いろいろなことが出てくると思います。

マティス《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》提供:ALBUM/アフロ

 ここで一緒にアンリ・マティス『緑のすじのあるマティス夫人の肖像』を見てみましょう。
 少し異なる視点で鑑賞するために、ここでは「自分以外の人に変身する」ことをおすすめします。例えば作品の登場人物(=マティス夫人)や、作品を描いた人(=マティス)になったつもりで、自分で考えてみます。
 「本当に緑の色にメイクしていたのかな? だったらマティス夫人はちょっと変わってる」「なぜ鼻すじを目立たせたいの?」「絵を描いた時に、パレットに緑の絵の具があったのかな」「この色に、マティスの考えが表れているのかもしれない」……と、新たな気づきや疑問が出てくるかもしれません。
 これが、「自分なりのものの見方」で「自分だけの答え」をつくる「アート思考」です。アートを見て考える。こうしたことを繰り返すうちに、アート作品だけでなく、生活の中のさまざまな場面で、自分なりに考える力がついていくと思います。
 アニメや音楽の作品に触れる時、本を読んだ時、夕食を食べる時、友だちや同級生とおしゃべりする時、歩いていた街の風景を見た時…、少し立ち止まって「自分はどう感じるのか」を考えてみてください。見えている世界がきっと変わっていくと思います。

(構成:編集部)

末永すえながゆきさん
東京都生まれ。東京学芸大学個人研究員。アートを通して、「ものの見方を広げる」ことに力を入れたユニークな授業を展開している。著書『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社刊)は20万部のベストセラー。

写真:石山勝敏 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年秋号(No.7)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。