[ 特集 ]スポコン!ースポーツと根性?ー

『THE FIRST SLAMDUNK』(バスケットボール)。『ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(バレーボール)。サッカー生命をかけた環境の中、最強コンビが躍動する『劇場版ブルーロック-EPISODEなぎ』(サッカー)など、映画館ではスポーツのアニメが大人気です。登場人物たちは、スーパーな選手ばかりではありません。気弱な性格だったり、レギュラーになれなかったり、うまくいかないこともあるけれど、あきらめずに努力する彼らは、挑戦する喜びにあふれていて、カッコいい。思わず「行けっ!」「頑張れっ!」と応援したくなります。そんなスポーツアニメの世界はどこから始まったのでしょう。渡辺由美子さんに紹介してもらいました。

「スポ根」アニメはここから始まった!

“スポ根”アニメの誕生
 スポーツアニメが盛んになったのは、高度経済成長真っ盛りの1960年代末からです。試練に耐え抜く根性と努力でライバルに打ち勝っていく「スポ根」ものが、上を目指して頑張る社会風潮にも合い、共感を集めました。代表的な作品がきょじんほしです。貧しい家に生まれた主人公のほし飛雄ひゅうが、幼い頃から猛特訓をし、プロ野球の巨人軍入りを目指します。

 『アタックNo.1』は、主人公あゆはらこずえが、弱小バレーボール部を立て直し、仲間たちと試練を乗り越えて世界を目指すストーリー。どちらも「大リーグボール1号」「竜巻おとし」などの魔球が“必殺技”として登場し、スポ根アニメを盛り上げました。

放送開始 1968年~

『巨人の星』


原作 梶原一騎(かじわらいっき)
漫画 川崎のぼる(かわさきのぼる)
講談社「週刊少年マガジンコミックス」(全19巻)
DMM TV全話配信中

©梶原一騎・川崎のぼる/講談社・TMS

放送開始 1969年~

『アタックNo.1』

原作 浦野千賀子(うらのちかこ)
集英社「マーガレットコミックス」(全12巻)
DMM TVエピソード104まで配信中

リアルなプレーを丁寧に描写
 高校野球の世界をリアルにえがいたのが『ドカベン』です。“ドカベン”ことめいくん高校野球部のキャッチャーやまろうごうかいいわ、ピアノの天才・殿とのなどユニークなキャラが登場し、チームプレーを描きました。

 『エースをねらえ!』では、主人公のおかひろみがむなかたコーチに見いだされ、激しいレギュラー争いをしながら、テニスの一流選手へ成長する様子が描かれました。

 80年代になると「根性」より「友情」の時代に。『キャプテンつばさでは、サッカーが好きでたまらないおおぞらつばさが仲間との絆で、ワールドカップを目指すドラマが描かれ、世界中で大ヒット。『タッチ』では、高校野球だけでなく恋愛の要素も加わり、青春ドラマへと広がりを見せました。

放送開始 1973年~

『エースをねらえ!』


原作 山本鈴美香(やまもとすみか)
集英社「マーガレットコミックスDIGITAL版」(全18巻)

©山本鈴美香/集英社・TMS

放送開始 1976年~

『ドカベン』

原作 水島新司(みずしましんじ)
秋田書店『少年チャンピオン・コミックス』(全48巻)

スポーツの世界がより多彩に

クセつよ、スゴわざライバル多数
 2000年代初めには中学校の部活動テニスを描いた『テニスの王子様』、通称「テニプリ」が登場。主人公の天才テニス少年・越前えちぜんリョーマが、クセの強い才能や技を持ったプレイヤーたちと競い合い、団体戦で全国せいを目指す物語です。

放送開始 2001年~

『テニスの王子様』

原作 許斐剛(このみたけし)
集英社「ジャンプコミックス」(全42巻)
DMM TV、U-NEXT配信中

地味なキャラに共感する
 この頃からスポーツアニメの見方が変わってきます。それまでは「天才ってすげー」とあこがれて見ていたのが、「自分ならどうだろう?」と考えるようになり、地味だったり個性が強いサブキャラも丁寧に描かれるようになっていきます。

 『おおきく振りかぶって』はしれんは、抜群のコントロールを持つけれど、気弱でネガティブな性格です。よわむしペダル』さかみちは、努力を努力と思わず楽しくできるという才能の持ち主。くろのバスケ』くろテツヤは、身体能力は普通でも、メンバーの動きを見て影のように動き、的確なパス回しでチームの勝利に貢献します。自分にできることを、それぞれのやり方で見つけていきます。

 『ちはやふる』では、競技かるたが描かれます。主人公のあやはやが、個人戦で自分が勝つことだけでなく、みずさわ高校かるた部員みんなで団体戦を勝つために努力する様子が描かれています。

 どの作品も、主人公をとりまくサブキャラも活躍するのが見どころ。頭脳プレーやメンバーとの連携も多彩に描かれるようになり、スポーツを「観戦者」の視点で味わう楽しみもプラスされました。

放送開始 2007年~

『おおきく振りかぶって』


原作 ひぐちアサ(ひぐちあさ)
講談社「アフタヌーンKC」(既刊36巻)
Amazonプライムビデオ アニメタイムズ配信中

©ひぐちアサ・講談社/おお振り製作委員会

放送開始 2011年~

『ちはやふる』


原作 末次由紀(すえつぐゆき)
講談社「BE・LOVE」全50巻(続編連載中)
Blu-ray BOX発売中/発売元:VAP/各社配信中

TVアニメ「ちはやふる」
©末次由紀/講談社・VAP・NTV

放送開始 2013年~

『弱虫ペダル』


原作 渡辺航(わたなべわたる)
秋田書店「少年チャンピオン・コミックス」(既刊89巻)

アニメは各プラットフォームにて配信中

『弱虫ペダルLIMIT BREAK』
©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/弱虫ペダル05製作委員会

大切なのは勝利だけじゃない

自分で設定したゴールを目指す
 2010年代になると、作品はさらに多様化し、勝利より、目標に向かって頑張る過程が重視されるようになります。

 『ハイキュー!!』では、主人公のなたしょうようとチームメートそれぞれのキャラを通じて、「夢中になる」ことの素晴らしさが描かれます。劇場版では、「バレーやって楽しいの?」というダルいキャラのづめけんが日向に影響され、“こんなに苦しい試合は初めて。でも苦しいからこそ面白い”と、バレーの楽しさに目覚めていきます。

 優れたサッカーIQの持ち主、いさぎいちが主人公の『ブルーロック』は、物語のつくりがじゅうそうてきです。“ブルーロック”に集められた高校生フォワード300人は、世界一のストライカーになるために「エゴイストになること」を課され、サバイバルバトルを繰り広げます。ところが、勝ち進むにはライバルを落とす一方、信頼できる仲間が必要。競い合いながら友情をはぐくみ、劇場版ではブルーロックの戦いが、天才ストライカーなぎせいろうの視点で描かれます。

 映画『THE FIRST SLAM DUNK』の主人公は、90年代『SLAM DUNK』本編ではあまり描かれなかったみやリョータ。運動能力は優れているけど、背が低くてダンクはできない。けれども毎日練習を積み重ねたドリブルを生かした速攻やフェイクでチームに貢献します。

 どの作品にも共通するのが、自分なりの目標を設定し、どう楽しんで努力したかを大切にしていること。勝たなくても、天才でなくても、夢中になって頑張ったその先には何か得るものがある。そんなメッセージが伝わって元気になる。それがスポーツアニメの魅力だと思います。

放送開始 1993年~

『SLAM DUNK』


原作 井上雄彦(いのうえたけひこ)
集英社「ジャンプコミックス」(全31巻)

『THE FIRST SLAM DUNK』
© I.T.PLANNING,INC.
© 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

放送開始 2014年~

『ハイキュー!!』


原作 古舘春一(ふるだてはるいち)
集英社「ジャンプコミックス」(全45巻)

Netflix、Hulu配信中

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
2024年2月16日(金)全国公開/配給:東宝
©2024「ハイキュー!!」製作委員会 ©古舘春一/集英社

放送開始 2022年~

『劇場版ブルーロック-EPISODE 凪』


©金城宗幸・ノ村優介・講談社/
「ブルーロック」製作委員会

2024年4月19日公開
原作 金城宗幸(かねしろむねゆき)・画 ノ村優介(のむらゆうすけ)
講談社「講談社コミックス」(既刊28巻)

 ここでは、冊子では紹介できなかったスポーツアニメや、紹介した作品のさらなる推しポイントについてお話しします。
 スポーツアニメの初期作品は、何かを犠牲にしてでも勝利をつかみにいく「スポ根」要素が満載でしたね。それが1980年代になると、“ど根性至上主義”は薄れて、チームみんなで上を目指そうという作品が主流になっていきました。
 そんな中で登場したのが、高校野球とラブコメの要素が半々ぐらいで描かれている『タッチ』です。
 主人公は上杉うえすぎたつと双子の弟・かず、隣に住む朝倉あさくらみなみという幼なじみの3人で、微妙な三角関係にあります。兄・達也は、何事にもいい加減で不真面目な性格。対照的に、優秀で真面目な弟・和也は、野球部のエースピッチャーとして活躍かつやくし、ヒロイン・南に「甲子園に連れて行く」と約束していました。そんなある日、和也が事故死。達也は、和也の遺志を引き継ぐことを決意します。ボクシング部から野球部に移籍すると、和也の夢をかなえ、和也が南と交わした約束もかなえようと努力します。達也のエースピッチャーとしての成長と、南との恋の行方が気になる名作です。
 ポップな流れの節目になった作品が『YAWARA!』。柔道の才能に恵まれた主人公・猪熊いのくまやわらが、「普通の女の子になりたい」という思いと葛藤しながらも、柔道で世界を制する物語です。
 注目してほしいのは、天才・柔ちゃんを取り巻くサブキャラたちです。例えば、親友のとう富士子ふじこ。背が高くなり過ぎて、バレリーナになる夢は果たせなかったけれど、身体能力の高さと柔軟性を生かして柔道で開花していきます。天才一人が活躍するのではなく、挫折した経験を持つ選手の頑張りも描いているところがすばらしいですね。
 また『YAWARA!』は、アニメのオープニングで、柔ちゃんがいろいろな服を着て登場します。柔道着だけではなく、かわいい服を着たことで、柔ちゃんのような柔道少女はカッコよくてかわいいというイメージが誕生。ファッション要素を取り入れて、女子スポーツアニメを再び盛り上げる役目を果たしました。
 続く90年代は、天才とカリスマが活躍する作品が多くなります。
 代表的な作品が『SLAM DUNK』です。主人公のさくら花道はなみちは、バスケ初心者ですが、天才的な能力の持ち主。明るく前向きな性格で、周囲を引っ張る存在です。花道の明朗なキャラとカッコよさが若者たちの心をつかみ、原作が連載されていた『週刊少年ジャンプ』を読む少女が増えました。
 また、モデルとなった江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅がアニメのオープニングに登場し、現地を訪れる“聖地巡礼”が話題になりました。その人気は今も続いていて、海外からのファンも訪れる観光スポットになっています。
 映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、原作『SLAM DUNK』を別の視点で描いたところが面白いと思います。主人公は、カリスマの桜木花道ではなく、チームメートの宮城リョータ。背は低いけれども、優れた身体能力の持ち主で、「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!」と、磨きをかけたドリブルとスピードでチームに貢献するというキャラクターです。映画では、原作やアニメでは描かれていなかったリョータの過去が初めて描かれます。地元でプレイヤーとして期待されていた兄に憧れてバスケを始めたリョータ。兄が海難事故で行方不明になった後も、優秀な兄と比較され続けます。でもリョータは、ドリブルの練習を積み重ねることで、自分の個性を生かした得意技をレベルアップするだけでなく、心の葛藤も乗り越えていきます。天才でなくても、何か足りないものがあっても、それを埋める努力を積み重ねると、その先に何か得るものがあるというメッセージが伝わってきます。
 2010年代になると、私たちの価値観は多様化し、部活人口は減る傾向に。一方でスポーツは「する」だけでなく「見る」ものとして進化します。それによりスポーツアニメの描き方も多様化。誰かに勝つことよりも、自分のモチベーションを高めて課題をクリアする主人公たちが躍動します。
 その代表作が『黒子のバスケ』です。主人公のくろテツヤは、いわば“影のキーマン”です。身体能力や体力は凡人並みで、存在感も希薄。一方、中学時代のチームメートには個性的な天才プレーヤーが5人いて「キセキの世代」と呼ばれている。黒子は、その影の薄さと、優れた観察眼を生かしたパス回しで、天才たちのプレーをサポートし、チームの勝利に貢献します。卒業後、黒子たち6人は別々の高校に進学し、戦うライバルとなります。物語は、黒子だけでは勝てないチームの戦い方を軸に、チームの連携プレーや友情、チームメートとの一体感などが描かれます。天才的なアスリートの活躍を楽しむだけでなく、スポーツを観戦する面白さも重視した作品なんですね。

 スポーツアニメは、原作漫画だけでは表現しきれない、ダイナミックなアクションシーンが見られる点も大きな魅力です。そこで、「ここに注目してほしい」と思う鑑賞ポイントを競技別に整理してみました。
 バレーボールは、非常に動きの速いスポーツ。『ハイキュー!!』でも、ボールに触れる時間が短いと表現されている通り、ダイナミックなボールの動きと、スピード感が魅力です。速攻やサーブなど、個人技を鍛えることが重要です。劇場版の『ゴミ捨て場の決戦』では、孤爪の視点でボールを追っているシーンがあります。一人の目線で追うという斬新な演出によって臨場感が増し、「ボールってこんな風に見えるんだ」という新鮮な驚きがあります。そのようなダイナミックな動きを見たのは初めてだったので、とても感動し、どうやって作画したのか興味がわきました。
 バスケットボールは、パスでボールをつなぐので、個人同士の連携が光ります。また、守備範囲が広いので、体力強化も大切な要素です。バスケは一瞬で攻守が入れ替わる緊張感があります。バレーは「ボール」を追いますが、バスケは「選手」を追います。人物を追うので、鑑賞する私たちもリアルタイムのような臨場感を感じやすい。『THE FIRST SLAM DUNK』でも全編にわたって試合が描かれましたが、まるで私たちも実際の試合を客席で観戦しているような気持ちになりました。
 サッカーは、ゴールまでの距離が長いので、作戦を立てることが重要。かけひきの時間が長く、個人技とチームメートとの連携を軸に、頭脳戦が展開されます。カメラが遠景になった時に、チームの動きがかんで見えると面白さがグンとあがります。
 野球は、「間」を描くスポーツです。例えば、ピッチャーが投球するシーンでは、誰も動かない静かな場面でも、「相手の意図を探る」という大きな心理戦が展開されています。ピッチャーとキャッチャーのペアであるバッテリーは、相手にどんな球を投げればアウトにできるかを考え、バッターもどんな球が来るかを考えます。双方の読み合いに、観ている私たちも頭脳がフル回転! アニメは時間をコントロールすることができるので、ジリジリとした間を演出することに向いています。バッテリーとバッターがかもし出す緊張感が上手に描かれた野球アニメは、とても面白いです。
 自転車競技は、練習でも試合でも「道」を描き続けることが多いので、映像的にどう面白く見せるかの工夫が光ります。『弱虫ペダル』は、小野田おのだ坂道さかみちたちが毎日コツコツ努力して、仲間と連携することで心身ともに強くなり、苦しい場面を突破していくところが魅力。試合のシーンでも、選手たちはアスファルトの道路を自転車でひたすら走っていくわけですが、適わないと思うライバルが自分を追い抜く時のスピード感を強調したり、あえてアスファルトの地面だけを映して道の先を見せないことで、“いつ終わるかわからない”焦燥感を醸し出したりと、登場人物たちの心理に合わせた映像の見せ方が試合のだい醐味ごみになっています。たとえ映像の中で人物が誰も映らず、ただ道と選手のモノローグの言葉が続く場面であっても、それが彼らの心理と頑張りを映す演出となり、心情がはっきり“見える”ようになります。

(構成:編集部)

放送開始 1985年~

『タッチ』


原作 あだち充
小学館「少年サンデーコミックス」(全26巻)
U-NEXT配信中

「タッチ TVシリーズ Blu-ray BOX 1&2」
Blu-ray発売中
BOX 1:35,200円(税抜価格 32,000円)
BOX 2:26,400円(税抜価格 24,000円)
発売・販売元:東宝

©あだち充/小学館・東宝・ADK

放送開始 1989年~

『YAWARA!』

原作 浦沢直樹
小学館「ビッグコミックス」(全29巻)
DMM TV 配信中

放送開始 2012年~

『黒子のバスケ』


原作 藤巻忠俊
集英社「ジャンプコミックス」(全30巻)

『黒子のバスケ』
1st~3rd SEASON Blu-ray BOX発売中
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

©藤巻忠俊/集英社・黒子のバスケ製作委員会

※配信等の情報は変更となる場合があります。

わたなべ
アニメ文化ジャーナリスト。『アニメージュ』でライターに。日本初の声優誌創刊に協力し、アニメ誌『ニュータイプ』で『新世紀エヴァンゲリオン』を担当するなど、クリエイターやプロデューサーの取材を続ける。現在は『ASCII.jp』『朝日新聞』『週刊東洋経済』『Business Insider』などで連載、執筆をする。著書に『声優になりたいあなたへ』などがある。

写真:石山勝敏

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年夏号(No.6)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。