[ 特集 ]スポコン!ースポーツと根性?ー

『ロボコン』『まぶだち』など、心に残る青春映画を撮り続けている映画監督の古厩智之さん。今年3月に公開された『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』は、徳島県の小さな港町に住む高校生3人が、eスポーツの全国大会に挑戦する日々を描いた映画です。

©2023映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会

役者の役作りが面白さを引き出した

 「この映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』は、実話を元にしているんです。eスポーツはパソコンゲームなどを使う対戦競技。ゲームを使った競技なので、少し変わった撮影現場になりました。プレーヤーはボイスチャットの声でがつながっている設定なので、メインキャラクターを演じる役者3人は別々の部屋で撮影。撮影で使うゲームがまだできていなかったので、僕が『さあ、敵が出てきたぞ!』など、実況中継しながら役者に演じてもらったんです。それを3回繰り返しました」

 Wダブル主演を務めたのは、注目の若手俳優、おくだいらだいけんさんとすず鹿おうさんです。

 「若い俳優さんたちと映画を撮るのは楽しいです。ベテランの俳優と比べると固まりきっていないので、テクニックではなく全力で演じてくれ、その場で生っぽいものが出てくるんです。

 今回も奥平君が演じたしょうが、あんなに受け身で優しい一歩引いたようなキャラになるとは予想外でした。でも、10代は受け身が楽だったりする年頃。だから奥平君の解釈は正しいし、役作りはすごく良かったと思います。

 反対にクールなたつろうを演じた鈴鹿君本人は、すごく優しくていい子。王子様のようなイメージのある彼に、本来の彼と違うキャラクターを演じてもらったことで、面白みが出たと思います」

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』
2024年6月14日(金)からAmazon Prime Video(プライムビデオ)独占配信

スポーツは「遊び」

 これまでに青春映画を数多く手がけてきた古厩さん。『ロボコン』のぐりしゅんさん、ながさわまさみさん、『ホームレス中学生』のいけてっぺいさん、『武士ぶしどうシックスティーン』のなる璃子りこさん、きたきいさんといった人気俳優たちの若き日の輝きを映画で観ることができます。

 スポーツを題材にした映画も多く、演じる役者たちは実際にスポーツを猛特訓して撮影にのぞむといいます。

 「駅伝を題材にした『』の撮影では、故・うらはるさん、うえじゅさんに、日本陸上チームのコーチの指導で、相当走り込んでもらいました。映画では、駅伝のスピードで走っても速く見えないので、役者には全力疾走してもらわなければいけません。でも、人って同じつらい思いをすると仲良くなりますよね。撮影当初は性格が合わなかった役者同士も、終盤には仲良くなっていました。僕自身は、根性があればなんとかなるとは思いませんが、撮影現場はスポ根のようだったかもしれません(笑)。

 スポーツを“PLAY”すると言うように、本来、スポーツは“遊び”だと思います。ルールを決めて、その時間は遊ぼうよと戦うものですから。もしルールがなければ、仲たがいして殺し合いになってしまうかもしれない。大人になると、10代の頃のようには遊べなくなるから、スポーツってすごくいいと思います。

 それが『PLAY!』のようなeスポーツなら、言語や場所、時間を超越してつながることができる。息子も小学生の時にフォートナイト※をプレーしていましたが、インドネシアの子とも遊んでいました。何のしょうへきもなく世界とつながれるなんて面白いですよね」

※オンラインゲームの一つ。

エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)の略。高度な技能を競うコンピューターゲームをスポーツ競技の一種と見なしたもので、アジアや欧米ではプロリーグが存在する。ファン人口は年々増え続け、日本でも近い将来1千万人を超えると見込まれている。IOC(国際オリンピック委員会)主催の世界大会も開かれるほど、今や正式なスポーツとして国際的に認められている。

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~
高等専門学校に通う翔太は、ひょんなことから先輩の達郎、クラスメートの亘と共にeスポーツ大会に出場することに。性格も年齢も家庭環境も全く違う3人がeスポーツに魅了され、決勝戦を目指していく。

2024年/122分/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2024年6月14日(金)からAmazon Prime Video(プライムビデオ)独占配信

『奈緒子』

誤って海に落ちた奈緒子(上野樹里)を助け、雄介(三浦春馬)の父が命を落としてしまう。その6年後、奈緒子は天才ランナーに成長した雄介と偶然再会。互いに心の傷を抱える中、奈緒子は陸上部のマネージャーとして雄介と共に夏合宿に参加することに。


2007年/120分/日本
©2008坂田信弘・中原裕/「奈緒子」製作委員会
原作/坂田信弘・中原裕(小学館ビッグコミックス)

思わず口から出た「ガンバ!」

 『のぼるてらさん』では、ボルダリングに打ち込む小寺さんに周りの生徒たちが次々と影響されていきます。

 「本当はきっと、みんな頑張りたいと思っている。ただ、それを大きな声で言うのは恥ずかしい。それに、頑張ることが大切なのは分かっているから、人から頑張れとも言われたくない。だから、誰かに『頑張れ』と言うのも難しいですよね。

 映画では、大会でふんとうする小寺さんにみんなが『ガンバ!』と声を掛けます。あれは、ボルダリングをしている人たちが実際に使う言葉です。『自分は何もしてあげられないけど、頑張るお前を信頼しているぞ』という意味。『頑張れ』のようなプレッシャーを与えない、相手といい距離感を保てる言葉だと思います」

『のぼる小寺さん』

ボルダリングに打ち込むクライミング部の女子高生、小寺さん(工藤遥)。そんな彼女から目が離せず、惹かれていく卓球部の近藤(伊藤健太郎)。さらには周囲の人間も影響を受けていく。人気コミックを映画化した青春ドラマ。

2020年/101分/日本
Blu-ray&DVD コレクターズ・エディション発売中
Blu-ray:7,480円(税込)
DVD:6,380円(税込)
発売元:2020「のぼる小寺さん」製作委員会
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2020「のぼる小寺さん」製作委員会
©珈琲/講談社

家と学校だけが世界じゃない!

 映画を通して古厩さんが伝えたいこと。それは、自分たちのいる世界はもっと広く、面白いということです。

 「『PLAY!』に出てくる大人たちは疲れきっていて、家庭は機能していません。そうなると、家庭と学校以外の“第3の場所”がない子どもにとって、自分の世界は学校しかなくなってしまいます。でも、本当は世界は家と学校の2つだけじゃない。もっと広いし、翔太や達郎のようにその世界の中でいろんな仲間とつながって、自分の世界を広げてほしい。

 だから、もし今苦しくても、なんとかやり過ごしてほしいなと思います。今、自分の目の前にあるきゅうくつな場所が世界の全てじゃない。君たちには家や学校とは違う、第3の場所がある。映画を観てそれをぜひ知ってもらいたいです」

 僕が皆さんと同じ10代だった頃は、キラキラした青春時代なんて送っていませんでした。子どもの頃は少年野球をやっていましたが弱かったし、中学高校と続けたテニス部も、なんとなく楽そうだしカッコいいからみたいな理由で入って、授業が終わったら部活をして、ジュースを飲んで帰るだけ。まじめにやっていないから、大会へ出れば1回戦で負ける。青春の1ページといえる思い出は一つもないんです。でも、頑張りたかったなとは思います。本気で頑張ればよかったなあって。
 スポーツには夢中になれなかったけれど、大学生になって映画を作る学校に入ったら、それがすごく面白くて、初めて夢中になれた。やっぱり何かに夢中になるっていうことがずっとしたかったんだなと思います。
 10代の頃には「映画を撮る」なんて思ってもいませんでしたが、その下地になるような体験はありました。
 僕が通っていた中学校は、とても厳しい学校でした。毎日の生活記録を先生に提出しなければならず、学校に管理されている状態。そのうえ、当時は校内暴力も日常茶飯事で殴られることもよくありました。学校をサボりたいけれど、もちろん親には言えません。そんな時に逃げ込んだ場所が映画館だったんです。
 当時は、千円くらいで映画館に入ると、2本の映画を一日中観ていられたんです。1本目を観たら、券売り場のおじちゃんに「ちょっと出てきます」と伝えて映画館を出る。「じゃあ、また帰ってきてねー」なんて言われて、本屋で立ち読みをしたり、焼きそばを食べたり、ゲームセンターで遊んだりして、また夕方の回に戻ってきて2本目の映画を観て、家に帰る。それがお決まりのパターンでした。
 10代の頃って学校と家を行き来する生活だから、学校と家以外の世界をあまり知らないじゃないですか。でも、スクリーンには、家でも学校でもない場所や人がたくさん出てくる。例えば経営者がいたり、悪い奴がいたり、ピザ屋の親父がいたり、いろいろな社会を見ている気がして面白かった。映画の登場人物に自分を重ねて、「妻を殺された刑事が犯人を追う気持ちはこうなのかな」「彼女にフラれるってこんな感じかな」とか、いろいろな人の気持ちを疑似体験しましたね。
 一人で映画館で過ごす時間は、学校や家から解放されて自分のことを考えることができる唯一の時間でもあったんだと思います。僕にとって映画館は、学校でも家でもない“第3の場所”。ある意味、逃げ場所だったのですが、この場所で自分というのを形づくれたと思います。
 夢中になるものなんてすぐには見つからないと思う。でも、逃げることはできる。学校や家ではない “第3の場所”を見つけて、世界を広げることができたら、夢中になれるもののカケラが見つかるかもしれません。
 僕らもただぼーっと寝っ転がって空を見てたりしたことがありましたが、今の10代はそんなことはしないのかな。みんな忙しいからね。空は見なくていいから、どんな方法でもいいから、いい逃げ場所、自分にとっての“第3の場所”を見つけてほしいと思います。

(構成:編集部)

ふるまやともゆき
1968年長野県生まれ。『この窓は君のもの』(1995)でデビュー。同作で日本映画監督協会新人賞を受賞。『まぶだち』(2001)でロッテルダム国際映画祭グランプリ。『ロボコン』(2003)で日本アカデミー賞優秀脚本賞。『さよならみどりちゃん』(2005)でナント三大陸映画祭銀の気球賞。『奈緒子』(2008)。『ホームレス中学生』(2008)。『武士道シックスティーン』(2010)。『サクらんぼの恋』(2018)。『のぼる小寺さん』(2020)などを監督。

写真:小林真純

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年夏号(No.6)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。