[ 特集 ]時間を味方にしよう

 私の仕事は臨床心理士。人の悩みを聞いて、解決法を考えるのが主な仕事です。

 中高生たちからも、学校に行きづらいとか、成績が伸びないとか、遅刻しちゃうとか、困りごとを相談されることもあります。それらの多くは「時間」に関係しています。

 ほとんどの人が思い当たることだと思います。でも、「だらしない性格だから」と理由をつけてあきらめたり、「自分はダメなんだ」と思わないでください。

 性格のせいでも、あなたがダメだからでもありません。ただ、「時間管理がうまくいっていない」だけ。物事のとらえ方や行動パターンを変えることで、時間をうまく使えるようになると、生活の流れはよくなっていきます。

 「時間管理」というのは、実は心理学用語。私たちの脳には、「これをやろう」と考え、計画を立て、やりとげるまで自分自身をコントロールし続ける「実行機能」が備わっています。その中で、「〇時までに」とか「締め切りまでに間に合わせる」といったように時間を意識したはたらきを「時間管理」というのです。この機能はとても複雑ですが、次のような4つのステップに分けることができます。

 時間管理が苦手な人は、このステップを意識して行動すると、スムーズに進むようになります。

 「実行」の最初のステップ。勉強するつもりで机に向かっているのに、ほかのことを考えてしまったり、なかなか取りかかれないことを「さきばし」といいます。

 「計画を立てる」とは、表や手帳に予定を書き込むことではありません。朝の身じたくや、学校から帰ってやることなど、「次はこれ、その次はこれ」と頭の中で手順を考えて実行しているのです。

実行している間、私たちは自分の行動をチェックしています。「家を出るまであと何分」「間に合わないからスピードアップ」などと考え、時間どおりに進むのです。

やろうとしたことを完了させないと「実行」したとはいえません。進行中にスマホを見たり、ほかのことを考えたりしないで集中して最後までやり抜きましょう。

  • ●「できないかも」と不安になる
  • ● やることが多い気がしてイヤになる
  • ● ギリギリにやっても間に合うかも

大変なのは「最初の一歩」。何かを始めるには大きなパワーが必要です。でも、始めてみたらスイスイ進んだ経験があるでしょう。それは最初の一歩を踏み出した「ごほうび」です。一方、先延ばしにすると「やらなくちゃ」と自分を責め続けることに。「すぐに始める」ほうが実は楽なのです。

  • ● 計画を立てずに始めている
  • ● 時間の見積もりが間違っている
  • ● 計画する時間がもったいない

たくさんのタスクがある時、「計画を立てる」のはとても大切。まず「締め切り(ゴール)」を設定し、逆算して予定を立てていきます。次に、自分が使える時間を割り出し、タスクを細分化して空き時間にあてはめていきます。計画があると、自分を助けてくれるし安心もできます。

  • ● 時間の感覚がない
  • ● 時間を確認しながら進められない
  • ● 進み具合を見て、やり方を変えられない

「モニタリング」とは、実行している間に計画どおりやれているかをチェックすること。3ページのワークを30分でやると決めたら、10分ごとに時計を見てかかった時間を確認。うまくいかなかったら計画を変更する必要があります。「ゴールはなんだっけ?」と、問いかけるクセをつけましょう。

  • ● 勉強の前に机の片づけを始める
  • ● ほかの楽しいことをしたくなる
  • ● ゴールを忘れてしまう

時間管理が苦手な人は、自分にブレーキをかけることが苦手です。勉強しようと思っているのに、つい机の片づけをしてしまうのは、勉強の結果と違って「机がきれいになった」という結果がすぐに出るから。「やりとげる」ためには、スマホを親に預けたり、集中できる環境をつくりましょう。

WEB限定深堀りコラムのタイトル画像が入ります

WEB限定深堀りコラムの見出し画像が入ります

 時間を管理することの大切さが少し分かってきたでしょうか。


 実は私も「時間管理ができない」人間でした。
 高校生の時には、大学受験の願書の書類をそろえられなくて入学できなかったり、入学してからも、いろいろなことをやらかしていました。でも、ギリギリアウトになって、「こんなに取り戻せないことってあるんだ」と何度も涙を流して、「このままではいけない」と、本気で時間管理を研究するようになったのです。
 失敗することも大切ですが、皆さんには、そんな体験をしてほしくない。だから、今からちょっと頑張って、イヤなことを後回しにせず、時間をうまく使えるようにしていきましょう。

ここでは、「時間感覚」を身につけるトレーニング方法を紹介します。

 よく、勉強や面倒くさいことをやるには「ごほうび」を用意しておくといいよっていいますよね。この「ごほうび」というのは、認知行動療法で用いられている方法の1つ。
 「望ましい行動をしたら、その人が喜ぶよい結果を用意する」。すると、「望ましい行動が増えていく」という原理があるのです。
 でも、「ごほうび」を取っておくことって、難しいですよね。

 こんな相談をされたことがあります。
 「友だちのLINEの返信はワクワクするものだから、これをごほうびに取っておいて、先に勉強すると決めた。でも、がまんできなくてすぐ返事しちゃった」
「宿題をしたら、ごほうびのチョコレートを食べるって決めたけど、先に全部食べちゃいました」

 そんな悩みには、こう答えます。
「これって、トレーニングなんだよ」

 やりたくないことを先延ばすのではなく、ごほうびを引き伸ばして、やりたくないことを先にやる。10秒でもいいから、我慢する練習をしておくことは、先延ばしのクセを予防するトレーニングになるんです。
 特に中高生の皆さんの脳は、若くて発展中です。だから、だから、今我慢の力をつけると、一生役立ちます。だから、「これはトレーニングなんだ」という意識を持って頑張りましょう。

 「勉強してからゲームしなさい」とか「先に明日の準備をしておいたら?」なんて、家族から言われたことがあると思います。
大人たちがそんなことを言うのは、たくさん失敗して「あの時ああすればよかった」と思っているから。「時間の大切さ」が分かっても、取り戻すことができないことを知り、自分と同じことでつまずいてほしくないと思っているのです。

 大人に比べると、失敗体験が少ない中高生の皆さんは、頭では「時間の大切さ」が分かっていても、ついついやりたいことのほうに気持ちが行ってしまいますよね。
 それなら、その「やりたいこと」を使っちゃいましょう。「めっちゃゲームしたい」でもいいし、サッカー部の子だったら「もっと上手くなりたいから自主練したい」とかね。
 やりたいことに没頭する時間をつくるために、イヤなことや面倒なことは、できるだけ早く片づけてしまうように計画を立てるのです。これは、「タイパ」とはちょっと違います。一番好きなものを見つけて、それに一番時間が全部そこに多く注げるようにする。それならできる気がしてきませんか?

 やるべきことをうまく進めていくためには、やるべきことがどれだけかかるかを割り出して、その時間内に終わらせるよう計画を立てるといいでしょう。
 そのためにおすすめしているのが「手帳に書く」ことです。
 スマホなどのカレンダーアプリも便利ですが、紙の手帳は、スケジュールがパッと見渡せるので、時間管理がしやすいのです。使い続けていると、あなたの行動を見守る大切なパートナーのような存在になってくれます。

 私が使っているのはバーチカルタイプの手帳。1年間がアコーディオン上に折りたためるようになっています。
 バーチカルタイプは、一日の時間軸が縦になっているので、タスクごとにどれだけ時間がかかるかが見渡せます。

 まず予定を書き、できたことはチェックしたり、メモを書いたりしていきましょう。3色ボールペンで色分けをするのもいいですね。私は、黒で予定を書き、変更になったことは赤で、メモは青で書いています。
 「To Doリスト」や「ごほうびリスト」も書いておくとモチベーションが上がります。

 どれも、すぐに始められることばかりです。
 1つずつ始めて、自分の時間を増やし、生活を変えていきましょう。時間管理は、自分を替える第一歩。未来の自分をつくるのは自分自身なのです。

(構成・編集部)

なかしますずさん
1978年福岡生まれ。臨床心理士。公認心理師。専門は時間管理と認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学、福岡大学などの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員。『自信がもてないあなたのための8つの認知行動療法レッスン』など著書多数。

『マンガで成功 自分の時間をとりもどす時間管理大全』中島美鈴(主婦の友社

写真:中尾成幸 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024-25年冬号(No.8)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。