失敗したり、物事がうまくいかなかったりした時、「過去に戻って、やり直したい」「今を変えたい!」と思ったことはありませんか? でも、時間を過去に戻すことはできません。時間のかけがえのなさを教えてくれる、時間をテーマにしたマンガを紹介します。
22世紀の未来からタイムマシンに乗ってやって来た猫型ロボット「ドラえもん」。その使命は、何をやってもダメな少年・のび太の未来を変えること。のび太がピンチになると四次元ポケットからひみつの道具を取り出して助けてくれます。
『ドラえもん』には、時間をテーマにしたエピソードがたくさんありますが、代表的なのが「ドラえもんだらけ」です。たまった宿題をのび太に頼まれたドラえもんは、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後の自分を連れて来て、5人のドラえもんがけんかをしながら宿題をするという話。笑いながらも、時間の恐ろしさを感じるのではないでしょうか。
他にも「時間よ動け~っ!!」「きりかえ式タイムスコープ」「『時』はゴウゴウと流れる」などが時間をテーマにしています。
どれも子どもたちの日常を舞台にしたSF。「目の前の困りごとを工夫して解決し、未来をよくしていこう」という、子どもたちに向けた作者のメッセージが感じられます。
『ドラえもん』第5巻
藤子・F・不二雄
「ドラえもんだらけ」収録
全45巻(小学館)
©藤子・F・不二雄/小学館
『ドラえもん』第5巻
藤子・F・不二雄
「ドラえもんだらけ」収録
全45巻(小学館)
©藤子・F・不二雄/小学館
『アトム今昔物語』は、『鉄腕アトム』のもう一つの物語。2017年のある日、ロボット少年・アトムは大爆発に巻き込まれ、50年前にタイムスリップしてしまいます。そこは、アトムが誕生する前の世界。アトムが誕生するためには過去のアトムを破壊しなければなりません。
『PINO』は、心を持つ人型ロボットPINOとおばあさんとの交流を描いた物語。PINOは、おばあさんを助けるために自分が壊される運命を受け入れます。
どちらの作品も、修理すれば生き続けられるロボットが、自分の意志で生きる時間を終わらせる決意をします。「残された時間」が分かった時にやるべきことは何か? アトムとPINOの行動が、人生という時間の大切さを伝えています。
『アトム今昔物語』
手塚治虫
全3巻電子書籍(手塚プロダクション)©手塚プロダクション
『ピノ:PINO』
村上たかし(双葉社)
©村上たかし/双葉社
タイムスリップをして現在と過去を行き来する物語は、マンガが得意とするジャンル。高橋留美子の短編「炎トリッパー」では、女子高生の涼子が、ガス爆発事故に巻き込まれ、戦国時代へ。そこで出会った青年・宿丸と、事故ではぐれた少年を探します。同じ作者の短編「腹はらホール」では、食糧危機の時代を生きる一揆衆が、とある高校にやって来て、未来の危機を知らせます。
どちらも平和な現在に戻っておしまい、とはなりません。エンディングや時間の謎解きの面白さを味わえるマンガです。
過去から現代へと転生するのが『スローライフ家康』。徳川家康が現代生活を送る歴史コメディーです。江戸時代と現代を比べることで、今この時について考えさせてくれます。
『高橋留美子傑作短編集2』
高橋留美子
「炎トリッパー」収録(小学館)©高橋留美子/小学館
『スローライフ家康』
原作:丈月城 作画:伊達恒大
「週刊ヤングジャンプ」連載中(集英社)
©丈月城 伊達恒大/集英社
人が生まれてから死ぬまでの「人生」という時間について考えたくなる、ファンタジー作品を紹介します。
『葬送のフリーレン』は、10年かけて魔王討伐を果たした勇者たちが解散するところから始まります。主人公フリーレンは、1000年以上の時を生きる長命種エルフの魔法使い。仲間である人間の死に直面し、人間を知るための旅に出ます。
『ポーの一族』の主人公は、少年の姿のまま永遠に生き続ける吸血鬼エドガー。
自分だけが歳を取ることなく生き続ける。それはとても寂しく、孤独なことかもしれません。
自分の生きる時間と、ほかの人の生きる時間は違います。人生の歩み方について考え、自分の時間を生きていくことの大切さを教えてくれる作品です。
『葬送のフリーレン』
原作:山田鐘人 作画:アベツカサ
既刊13巻「週刊少年サンデー」連載中(小学館)©山田鐘人・アベツカサ/小学館
『ポーの一族』
萩尾望都
全5巻(小学館)
©萩尾望都/小学館
『東京卍リベンジャーズ』は、タイムリープの能力を得た花垣武道が中学時代に戻り、かつての恋人を救うために暴走族チームでのし上がっていく物語。
『orange』では、始業式の日に未来の自分からの手紙を受け取った高宮菜穂が、死んでしまった同級生の未来を変えようと仲間たちと行動を起こします。
どちらも、主人公がタイムリープの能力を使って、大切な人を救えなかった未来を変えていこうとする青春ストーリーです。恋人や友だちとのつながりを守ろうとするひたむきさと、「自分たちの力で未来を絶対に変えるんだ」という強い気持ちに共感する人も多いでしょう。
今の時間のかけがえのなさ、そして現在が未来をつくっていくのだと教えてくれます。
『東京卍リベンジャーズ』
和久井健
全31巻(講談社)
©和久井健/講談社
『orange』
高野 苺
全7巻(双葉社)
©高野 苺/双葉社
マンガ研究者 秋田孝宏さん
1965年東京都生まれ。元日本マンガ学会理事。米澤嘉博記念図書館スタッフ、大学非常勤講師。『タッチ』(あだち充)の最初のページに興味を持ち、マンガ研究を始める。専門はマンガの理論とデータベース。著書に『「コマ」から「フィルム」へマンガとマンガ映画』など。
写真:石山勝敏 イラスト:イラカアヅコ
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024-25年冬号(No.8)に掲載したものです。