[ 特集 ]ことばを味方にしよう

未来に役立つのは、自分の考えを見つけ、分かりやすく「書く力」

チャットGPTがあれば文章は書けなくていい?

あらゆる分野でAIが使われ、対話形式で自然な文章を作る「チャットGPT」も話題になっています。

事実をまとめるような文章を書くのは、AIの力で楽になるかもしれません。しかし、これからは、持っている知識を使うための考える力、自分の考えを組み立てる力がより求められるようになります。

大学入試も大きく変わっています。資料や対話文などから読み取れることや自分の考えを制限字数内で書くなど、記述式の試験が増えているのは、AI時代の世の中の変化を見すえてのことでしょう。

さて、皆さんは文章を書くことは好きですか? 学校では自由作文を書きますが、「自由」といいつつしょう転結てんけつを意識するようにとか、論理的に書くように教えられたかもしれません。でも、その通りに書こうとすると、なかなか面白くなりません。小さい頃に読んだ絵本は、起承転結になっていないし、論理的でなかったのに……。

論理的な文章とは、自分の思い込みや感情や偏見へんけんではなく、「きちんとした証拠を持ってみんなに分かるように」書いた文章です。しかし、みんなが分かるように書こうとすると、常識的な文章になりがちです。自分の発想を大切にすれば、文章の構成や表現にやくが生まれてしまいます。でも、この「飛躍」こそが、自分の思い、自分の主張です。

自分の発想を大切に

論文を書く時に大切なことは、主張がはっきりしていることです。主張といっても「こうすべきだ」と断定する必要はありません。「これってあまり知られていないかも」とか、「私には、それってこんなふうに思える」とか、「これってなんか変じゃない?」といったことでいいのです。まず自分の周りの小さな疑問を見つけ、そこから本や資料を調べて知識を深め、その疑問を掘り下げていけばいい。書くべきことは自分の中にあるはずです。

皆さんは、普段感じたことを、SNSによく投稿していますよね。短い文でスパッと本質をついていて、新しい発想も感じます。文章を書く時も、その感覚を大事にして身近な問題を自分なりに考えてみましょう。小さなことやどうでもいいようなことにこそ、面白いことがかくれています。

ただ、うそには注意が必要です。世の中には、数字やけんを持ち出して不安をあおるような嘘の情報がたくさんあります。われ思う、ゆえに我あり」の言葉で知られるフランスの哲学者・デカルトは、こう言っています。「あらゆる勉強をして全てを学んだつもりでいたけれど、旅に出て全部それが嘘だと分かった」と。ネットから入ってくる情報を信じる前に、自分で考えなければ嘘は見抜けません。

速く反応することばかりを競わずに、立ち止まって、本当のところはどうなんだろうと考えてみましょう。自分の中で議論を重ね、結論を簡単に出さないことが必要だと思います。

小論文をうまく書くにはどうすればいいですか?

文章を書くためのテクニックはありませんが、基本のルールはあります。一文一文の意味が読む人にしっかり伝わるように、丁寧に、分かりやすく、読みやすく書くことです。飾ったり、立派なことを書く必要はありません。

分かりやすい文章というのは、話のすじが通っているということです。言葉の意味はぶんみゃくによって変わってしまうので、一文一文のつながりに注意しましょう。

誰でも知っている具体例を入れたり、みんなの経験に結びつく事例を出すと読みやすい印象になります。

「なのである」とか「かもしれない」など文末に重苦しさやあいまいさをつくらないようにする、漢字を多く使わない、一文を短くする、段落を多めにする、読点とうてんを多くするといったことも、読みやすくするポイントです。

自分の物語をつくろう

文章を書くことは、ほかの誰にもつくれない自分の物語をつくること。あなたがあなたであるための行いです。

あなたが書こうとしていることが、すでに誰かが考えていたことだとしても、必ず少しは違ったことが書けるはずです。それを見つけ出すのはとても苦しい作業ですが、チャットGPTにはできません。自分の感情と向き合って、内側からほとばしる声に言葉をあててみてください。

教えてくれたのは…
笠原がさわら喜康ひろやす
1950年青森県生まれ。元日本大学文理学部教授。専門は学力論、教育認識論、教育メディア論。日本博物館教育研究所理事長。著書に『論文の書き方』『大学生のためのレポート・論文術』『議論のウソ』『中高生からの論文入門』(片岡則夫との共著)などがある。

マンガ:村瀬綾香

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年秋号(No.3)に掲載したものです。