楽しく考えながら「書く」「読む」と毎日の言語生活が豊かになる。
話すのは得意だけど文を書くのは苦手です
書く時は「読み手」を意識しましょう
私たちが普段使っている日本語を大きく分けると、「話し言葉」と「書き言葉」、そして「打ち言葉」になります。
「話し言葉」には、「話し手」と「聞き手」がいます。
あなたが話し手だとすると、聞き手は、ほとんどの場合、友だちや家族といった、あなたのことを知っている人でしょう。あなたはその人たちと時間と空間、情報を共有していますから「言わなくても分かること」がたくさんあります。時には「あれ」と言うだけで伝えたいことが相手に伝わったりします。相手の様子を見ながら、繰り返したり、言い直したりもできます。
「書き言葉」の場合は「書き手」と「読み手」がいます。けれど、あなたが書き手の場合、「読み手」はあなたのことを知っている人ばかりとは限りません。
「言わなくても分かること」はほとんどないので、「伝えたい内容」を理解してもらうには、言葉で丁寧に分かりやすく説明する必要があるのです。
「書き言葉」は時空を超える
やはり「書く」のは面倒だと思いますか?
しかし、書き言葉には話し言葉にはない利点があります。書き言葉の目的は、「伝えたい内容」を記録として残すこと。話した言葉は、その場限りで消えてしまいますが、書いた言葉は、遠く離れている人や、違う時代を生きる人にも「伝えたい内容」を届けることができます。時間と空間を超えて残るのです。
そして、デジタルツールの進化とともに登場したのが、SNSなどインターネット上で使う「打ち言葉」です。
文字で表現するので「書き言葉」に近いものの、情報量が少なく、くだけた文体や仲間内だけで通じる言葉、絵文字などを多用するのは「話し言葉」のようでもあり、今のところは「話し言葉」と「書き言葉」の中間に位置しています。
使い方は実に多様なので、SNSが得意な皆さんの発想とひらめきで、これからもどんどん変化する可能性がありますね。
文を書く時は、こうした特性を理解して、あなたが「書き手」なのか「読み手」なのか、「視点」をはっきりと意識することが重要です。
あなたが書き手なら、「どう書けば、言いたいことが読み手に伝わるのか」と考えながら書きます。「読み手」なら、「書き手が伝えたいことは何なのか」と考えながら読みます。
そうやって、普段から「視点」を意識して、文を「書く」「読む」習慣をつけると、「考えて書く力」がぐんぐんつきます。
どうすれば「書き言葉」がうまくなる?
「言葉」は大切に使おう
「話し言葉」は人と話したり、人の会話を聞いたりするうちに自然に身に付けることができます。ところが「書き言葉」は習わなければ習得できません。
習うといっても大変なことではありません。普段から言葉に意識を向け、丁寧に扱うようにすればいいのです。言葉は人間と同じでとてもデリケートです。繊細な生き物に接する時と同じように大切に使うようにしましょう。
例えば、電車の広告やテレビを見ていて、「この日本語おかしいぞ」と思ったことはありませんか? そんな時は「変だな」と思った文を書き出して、自分で気持ちよく読めるように書き換えてみます。
教科書に載っていた小説のタイトルを自分の好みに変えてみたり、サブキャラを主人公にして自分で小説を書いてみるのもいいですね。「今回は行かん子(こんかいはいかんこ)」というように、回文を作ったりして遊ぶのも楽しいでしょう。
大切な友人や家族に接するように、親しく言葉とつきあってください。もちろん、読む時も書く時もです。
言葉は一生の味方
「書き言葉」のトレーニングで身に付けたスキルは、「話し言葉」や「打ち言葉」にも反映され、あなたの言葉の世界は繊細で豊かになります。すると、言葉を使うことが面白くなって、書くことばかりか、読書やおしゃべり、SNSも楽しくなります。
皆さんも、面白く学んで、愉快な気持ちで、日本語に接してください。そうしてつきあっていけば、言葉は一生、あなたの味方になってくれると思います。
教えてくれたのは…
今野真二
1958年神奈川県生まれ。日本語学者。清泉女子大学文学部教授。専門は日本語学。日本語の歴史、日本語の表記などを専門に追究している。『自分で考え、自分で書くための ゆかいな文章教室』『大人になって困らない 語彙力の鍛え方』など著書多数。
マンガ:村澤綾香
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年秋号(No.3)に掲載したものです。