おもに江戸時代に作られ、今も伝えられている「古典落語」。
落語家が表情と小道具だけで聞かせる噺には、生活していく上で大切なことが語られています。

　「そばぁ〜ぅ〜」。寒い冬の夜中、屋台のそば屋さんが声をかけながらそばを売り歩いている。そこに男がやって来て、そばを一杯注文した。この男、やけに愛想あいそうがよく、看板をほめ、割り箸ばしをほめ、どんぶりをほめ、出汁だしをほめ、麺をほめて、うまそうにそばをすすっている。

　食べ終わると、そば代の十六文もんを払うからと店主に手を出すように言い、「一ひい、二ふう、三みい」と一枚一枚数えながら一文銭いちもんせんを手渡していく。「四よう、五いつ、六むう、七なな、八やあ」と数えたところで、「今何刻なんどきだい？」と刻ときを聞いた。店主が「九ここのつです」と答えると、男は「十とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と数え上げ、さっと店を出て行った。

　この様子を見ていたもう一人の男がいた。「あの客、変なところで刻を聞きやがったな。……七、八、今何刻だ？　九つです。十、十一……、あれっ、一文かすめやがった！」。ごまかしに気がついた男、これは面白いと自分もまねしてみることにした。

　翌日、男は一文銭を持って屋台のそば屋さんを探すがなかなか見つからない。ようやく見つけた屋台は、そばは伸びているわ、器は欠けているわで、ほめるところがまったくない。なんとかそばを食べ終え、気を取り直して、例のお勘定かんじょうに取りかかった。

　「そば屋さん、銭ぜには細かいんだ。手を出しておくれ。いくよ、一、二、三、四、五、六、七、八、今何刻だい？」「四つです」「五、六、七、八……」。