民族運動の勇者を描いた超絶娯楽インド映画 民族運動の勇者を描いた
超絶娯楽インド映画

 舞台は1920年のインド・デリー。インドをイギリスが植民地統治していた時代で、厳しい支配に耐えきれず、民衆の独立を求める声は大きくなっていました。

 主人公のビームは、森に住む部族。英国人総督夫妻に連れ去られた村の少女を救い出そうとせんぷく中。もう一人の主人公ラーマは、独立闘争に必要な武器を手に入れる志を抱き、警察官として働いていました。お互いの真の目的を知らずに出会った二人が、戦い抜く姿を描いた娯楽映画です。

  主人公のビームとラーマは、いずれもインド解放のため活動したコムラム・ビームとA・シータラーマ・ラージュがモデル。二人が実際に会った記録はありませんが、映画ではこの二人の英雄が、時に敵対しながら、熱い友情を育み、民衆の心を一つにしていきます。映画はハッピーエンドで終わりますが、歴史は続いていきます。当時のインドを知ると、登場人物たちの行動が歴史とともにあると気づくでしょう。

『RRR』
UHD&Blu-ray&DVD発売中
発売・販売:ツイン

ⓒ2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

『RRR』

世界的に大ヒットしたインド映画。日本では2022年に公開され2年にわたるロングランとなった。ド派手なアクションや超高速ダンス、二人の英雄の友情を織り交ぜて描き、2023年アカデミー歌曲賞を受賞した「ナートゥ・ナートゥ」ダンス場面はTVでも話題に。
2022年/179分/インド

『RRR』
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イギリス政府に立ち向かい民族運動が活発に イギリス政府に立ち向かい
民族運動が活発に

 インドは、第二次大戦後に独立するまで、200年もの間、植民地としてイギリスに支配されていました。

 20世紀になると、植民地政府の圧政に対し、各地で民族運動を推し進めるリーダーが現れ始めました。その意志を継いで、インド国民軍を率いた武闘派スバース・チャンドラ・ボース、不服従・非暴力という「力」で闘ったマハートマ・ガンディーらが民衆を動かし、独立に向かううねりをつくっていきます。

インドは多言語国家。学校には“国語”がない!? インドは多言語国家。
学校には“国語”がない!?

 イギリスに統治されながらも、国内には500以上のはん王国があり、各地に藩王がいました。今でも各州には固有の言語と文化があり、隣の州とは言葉が通じないことも。

 現在、国の指定言語は22語。インド語と呼ばれるような「国語」はありません。多く使われているのはヒンディー語ですが、準公用語は英語。近年の急速な国際化にも役立っています。インドは多言語国家なのです。

恋愛結婚は若者の憧れの的

 近代のインドでは、結婚は家族やコミュニティの絆が強く、お見合い結婚が基本でした。内々の規律を破ることは許されませんでした。今でも親が認めない結婚は難しく、新聞の日曜版には、結婚相手募集の広告がたくさん。マッチングアプリも人気ですが、プロフィールには、カースト や宗教を入力する項目もあります。

※インドの8割を占めるヒンドゥー教の身分制度。

 日本で「インド」と聞くと、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは「カレー」ですが、実はインドには「カレー」という名前の料理は存在しません。では、なぜ「カレー」と呼ばれるようになったのでしょうか?
 その理由は、インドにやってきたイギリス人が「カレー」という言葉を使ったことにあります。彼らにとって、インドの料理はどれもスパイシーな料理ですが、種類が多いうえに、各地方によって名前が違う分わかりにくいものでした。そこでインド料理を表す適当な言葉が必要だったのです。諸説がある中で有力なのが、南インドのタミル語で「カリ」と呼ばれていた言葉が、「カレー」になり、インド料理全般を指す言葉として広がったという説。「カレー」は欧米で定着し、日本では明治時代初期にイギリス海軍のカレーとして日本海軍に取り入れられ、庶民に広がったのだそうです。
 昭和に入って、日本における本格インド式カレーの宣伝に尽力したのは中村屋の娘と結婚したインド人でした。日本で普及していたとろみのある欧風カレーに対し、スパイスの効いた「純印度式カリー」を売り出し、「恋と革命の味」というコピーで人気を集めました。そのカレーは現在も新宿中村屋で食べることができます。

 インドは世界一の「映画大国」でもあります。年間に上映される映画は1,800本以上。ハリウッドの3倍以上の映画を生み出す、世界一の映画大国なのです。ちなみに映画の料金は日本円に換算すると約200円から。インド映画は約3時間の作品が多く、インドの人たちはお弁当やスナックを食べながら家族でたっぷり楽しんでいます。
 歌あり、踊りありの娯楽作品の中にも、社会システムや風習、そして文化に触れることができるインド映画。教科書に載っていないインドを体験して、インドの歴史について考えてみてください。

『スーパー30 アーナンド先生の教室』

 数学の天才で教師のアーナンド・クマールの実話をベースにした現代インドの教育格差を描いた人気作品です。
 アーナンドは、ケンブリッジ大学への切符を手に入れましたが、貧しい家に生まれたことからお金の壁に立ちふさがれます。でも、彼は挫折を選びませんでした。
 その彼の夢を別の形で実現しようとします。それは、貧しい子どもたちの瞳に希望の光を灯す「スーパー30」という学びの城を築いたのです。30人の才能あふれる子どもたちに、勉強を教えただけでなく、彼らの人生そのものを変える、強烈な教育革命を起こしたのです。
 インドの教育の現実は厳しいものですが、お金がないからチャンスがない。教育は人生を変える唯一の「魔法の杖」なのです。夢をあきらめない、希望の物語が始まります。

監督:ヴィカース・バール
2009年/170分/インド
Blu-ray発売中
発売・販売:SPACEBOX

『きっと、うまくいく』

 名門大学を舞台に、友情と感動をたっぷり詰め込んだコメディ映画です。インドではIT業界はカーストの制約を受けにくく、クラスアップを目指せる開かれた新しい職業。競争を勝ち抜いて入学したインドのトップ理系大学を舞台に、3人のユニークな大学生活を描く成長物語です。
 ランチョーは型破りな自由人、ファルハーンは機械より動物が好きな、ちょっと変わった理系男子。そしてラジューは、頼りないけど心優しい苦学生。
 ランチョーを演じるインド屈指の人気俳優アーミル・カーンを中心に、ミステリー仕立てのストーリーが展開し、最後には思わず涙がこぼれる感動的なラストが待っています。

監督:ラージクマール・ヒラーニ
2009年/171分/インド

Blu-ray&DVD好評発売中
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
ⓒ Vinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved.

『ガンジー』

 非暴力・不服従を貫いたインド独立運動の指導者マハートマ・ガンディーの生涯を描いた名作です。第55回アカデミー賞で9部門を受賞した不朽の名作歴史映画。
 ガンジーが主導した非暴力主義は、当初は少数派の考え方でした。しかし、1930年の「塩の行進」を転機として、イギリス植民地支配に対する抵抗運動を大きく前進させていきます。
 ガンジーが主導した非暴力の闘いと、『RRR』のラーマやビームのような武力闘争とは、一見相反するように見えますが、実は二つのアプローチが、インド独立運動の両輪として機能していたのです。

監督:リチャード・アッテンボロー
1982年/191分/イギリス・インド・アメリカ合作

Blu-ray発売中、デジタル配信中

『ダンガル きっと、つよくなる』

 元アマチュアレスリング選手、マハヴィル・シン・フォーガットと彼の娘たち、フォーガット姉妹の実話をもとにした熱血スポーツ映画。
 父マハヴィルは、国内チャンピオンとして名を馳せていましたが、生活のためにレスリングを引退。インド初の金メダルを手にするという夢を娘たちに託します。
 インドでは、今でも女性に対する制限が多く、レスリングのような激しいスポーツは、女性には無理だと思われていました。
 そうした常識を打ち破り、女性が新たな分野に挑戦する姿を描いた感動作。彼女たちの挑戦と成長は、前に進む勇気をくれそうです。

監督:ニテーシュ・ティワーリー
2016年/161分/インド・アメリカ合作

(構成:編集部)

かさりょうへいさん
岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授。専門は日印関係史、南アジアの国際関係、インド・パキスタンの政治。著書に『『RRR』で知るインド近現代史』『インドの食卓そこに「カレー」はない』ほか多数。

写真:石山勝敏 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024-25年冬号(No.8)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。