

忘れられないナツの思い出

高1の夏です。中学高校と、強豪といわれる帝塚山学院ダンス部の部員でした。優勝を目指して頑張ったのですが、予選大会で敗退してしまったんです。高校生活で一番悔しかった。でも、「こんな経験はもう絶対したくない」という気持ちになり、より深くダンスと向き合うように。キャプテンにもなり、みんなに嫌われてもいいと思って厳しくしていました。高2の夏にベスト8に入った時は、本当にうれしかった。
なぜダンスだったの?

クラシックバレエは3歳から習っていましたが、ダンスを始めたのは帝塚山学院に入学してから。大学でもダンスを続け、関西大倉高校ダンス部顧問になりました。
ダンスには、正解、不正解がありません。思うように創作し、表現することができる。関西大倉では、作品のテーマを考え、音楽を選び、振り付け、衣装作りと、全員で作品を作り上げていきます。そして、体と心を解放して踊る。それが創作ダンスの一番の魅力です。


関西地区予選突破に向け、
今年の作品を作る関西大倉高校のダンス部員たち。
大会では、部員全員で舞台に立つ。
目指すぞ、高校日本一
関西大倉高校の部員は、ダンス未経験の生徒がほとんど。なのに、4月に入った新入部員が6月の予選ではもう全員舞台に立ちます。進学校で部活の時間も限られているので、先輩が後輩に教えたり、短時間でも密度の濃い練習でカバーしています。
かわいく見せたい盛りの子たちが、髪が乱れているのも忘れて体で表現し、うれしくて抱き合ったり、悔しくて泣けるって、めっちゃ青春やんって思います。この夏の目標は、ダンススタジアム優勝です。関西大倉高校ダンス部にしか魅せられない世界観を、会場でぶつけたいです。




中、高、大と、ダンス! ダンス! ダンス!
クラシックバレエは3歳で始めました。始めたばかりの頃は、「嫌いや」って泣きながら行っていたらしいのですが、気づけばめちゃくちゃのめり込んでいました。
中学でダンス部に入ってからは、部活に明け暮れていました。強豪校といわれる帝塚山学院だったので、朝練があり、時には昼練もあって、放課後はもちろん部活。バレエも続けていて、中1から高2までは週に3~4回は学校帰りにレッスンに行く日々でした。高3からは、「ラスト一年はダンスに全力を注ぎたい! すべてをダンスに捧げたい!」と思い、バレエをやめ、ダンス一本に。だから、中高時代は友だちと遊んだ覚えがあまりないんです。
周りの人からはよく「熱血」と言われますし、自分でも熱い人間だと思っています。やるからには「勝ちたい」し「うまくなりたい」し、いつも上を目指し続けたい」。そんな気持ちが止まらないんです。
中高のダンス部時代は、そんな調子でいつもがむしゃら。キャプテンをつとめた時はチームのみんなは大変だったと思います(笑)。でも、あれだけ一つのことに熱くなれるって、中高時代にしかできないことだとも思っています。
高校時代にダンス部の恩師に出会ってから。先生を見ていくうちに、「私もこんな素敵な人になりたいなぁ」「体育の先生になって、ダンス部の指導をしたい」と思い、大学に進学。大学時代も迷わずダンス部に入部。キャプテンとしてみんなと日本一を目指していました。

高3で日本一になった時の記念写真。
トロフィーを持っているのが木下さん

木下さんと関西大倉高校ダンス部の皆さん
関西大倉高校ダンス部が全国2位に!
現在は、関西大倉高校のダンス部顧問として、日々練習に頑張っている生徒たちを、「絶対に全国大会に連れていきたい」と、熱く指導しています。そういう意味では、中高時代から、気持ちの熱さは変わっていないのかな(笑)。
ダンス部の顧問になったのは4年前の2021年。私が就任した当初は、ダンス歴のない初心者の子がほとんど。全国大会に出場したこともなく、勝つために必死になるような部活でもありませんでした。だから、最初の2年くらいは、部員たちも私も本当に大変でした。
そんなチームが、2022年の「ダンススタジアム」(第15回日本高校ダンス部選手権)の全国大会で2位になったんです。ダンスの強豪校ばかりの中での大躍進で、周囲には驚かれましたし、自分が優勝した時(高校時代は「全国中学校・高等学校ダンスコンクール」、大学時代は「全日本高校・大学ダンスフェスティバル(神戸)」全国大会)よりもうれしかったです。生徒たちやご家族の皆さんとも、涙を流しながら抱き合って喜びを分かち合いました。

第17回日本高校ダンス部選手権
関西大倉高校

夏の大会に向けて、動きを固めていく。
「やっぱりダンスって最高!」
現在は、体育教諭、中学3年生のクラス担任、ダンス部の顧問をしていて、とても忙しい毎日です。自分が押しつぶされそうになることもありますが、そんな時は自然に練習室に向かっています。音楽を流し、一人で踊っているうちに、気持ちが落ち着いて、また頑張ろうという気持ちになります。私にとってダンスは、自分の道を標してくれる精神安定剤のようなものなんだと思います。
ダンスには正解、不正解がありません。それぞれが体と心を開放し、思うように体を使って表現する。面白く、難しいけれど、それが魅力です。
また、ダンスをしていると、コンタクトワークをしたり、リフトをしたり、常に仲間と触れ合うので、相手の呼吸やぬくもりを感じますし、人に対する愛情が深くなるように思います。
生徒たちに指導をしながら、創作ダンス活動も続けています。好きなダンサーや海外のダンスカンパニーの公演やワークショップなどがある時は、できるだけ参加しています。ダンスの発表会やコンクールに出場することもあります。
もちろん緊張もしますが、舞台に立ってライトを浴びながら踊っていると、「私を見て!」と心が弾みます。踊り終わった時には、いつも「やっぱりダンスって最高!」と思います。
部活は「自分の居場所」になる
私たち関西大倉高校ダンス部では、毎年オリジナルのダンスを部員たちと作り上げていきます。部活をしていく中で課題や目指しているものはたくさんありますが、一番大きな目標が、夏に開催される「ダンスタ」で日本一になることです。これは本気で目指しています。
でも、たとえ結果がついてこなかったとしても、作品を作り上げていく過程で、「やりきった!」とか、「楽しかった」「悔しかった」と、芽生えてくるいろいろな感情を大切にしてほしいと思います。
大会の舞台で演技を終えた部員たちからは、「やっぱりダンス部に入ってよかった」「続けていてよかった」という思いが伝わってきます。私も「ダンスをやっていてよかった」「あの頃の私と同じだな」とうれしくなります。
ダンス部に限らず、部活は、生徒の「自分の居場所」にもなります。「学校行くのだるいな」と思ったり、「クラスに友だちがいない」という時も、「部活があるから、学校に行ってみよう」という気持ちになってくれたらいいなと思っています。
部活でなくてもいいんです。いま何かに打ち込んでいる人も、好きなことを見つけられないでいる人も、自分の居場所というか、存在意義みたいなものが見つかるといいなと思っています。「やってみたい」ということに出合ったら、全力で突き進んでください!


チャレンジしたい人へ
中高生の頃は、一番体力がある時。「これやったらどうなるかな?」なんて考えないで、興味があることが見つかったら、突き進んでみるといいと思う。全力でやって、全力で失敗することもあるかもしれないけれど、それはきっと自分の経験につながっていくと思います。

夏って何色? 青春は?
夏は、赤っぽいオレンジ色。熱く燃えているイメージです。部活が終わった後、しんどいと思うんですけど、みんな「やりきったぜ」っていうようなすがすがしい顔をしているんですよね。楽しそうにしゃべっている笑顔とか、おいしそうにドリンクを飲んでる姿を見ると、青春だな! と思います。それは私の時代と変わりませんね(笑)。
(構成・編集部)
木下ひなた


第72回優勝(ビッグクラス)帝塚山学院

第72回優勝(スモールクラス)樟蔭高校
写真提供:日本ストリートダンス協会
高校ダンス部の各日本一を決める公式大会。「ダンス甲子園」「ダンススタジアム」とも呼ばれます。スモールクラス(2~12人)とビッグクラス(13~40人)に分かれ、全国10地区での予選を勝ち抜いたダンス部が、全国大会で日本一を競います。「夏の公式全国大会」は、7月24日から8月7日までの地区大会を経て、8月19日・20日に準決勝大会、9月7日に決勝大会が行われます。準決勝大会には、地方大会を勝ち抜いたスモールクラス50校、ビッグクラス50校が出場。そこからスモールクラス8校、ビッグクラス8校が決勝大会に進みます。

大会名
第18回日本高校ダンス部選手権 夏の公式全国大会
日程
8月19日・20日「準決勝大会」(パシフィコ横浜・国立大ホール)
9月7日「決勝大会」(日本工学院アリーナ)
演技時間
2分~2分30秒
チーム人数
スモールクラス:2~12名、ビッグクラス:13~40名
※1校からスモールクラス、ビッグクラスそれぞれ1チームまでエントリー可能。
配信
FODにてLIVE配信、VOD配信
主催
一般社団法人ストリートダンス協会、産経新聞社、フジテレビジョン
木下ひなたさん
和歌山県橋本市に生まれる。筑波大学体育専門学群卒業。中学高校時代は、大阪の帝塚山学院ダンス部で活躍。ダンスの全国大会の優勝に貢献した。2021年から関西大倉高校の体育教諭、ダンス部顧問をつとめる。2022年夏、関西大倉高校のダンス部が全国大会出場2回目にして2位に入り、熱き指導者として注目を浴びている。

写真:水野浩志
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025年夏号(No.10)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。