





変化と持続――私たちは日々変化する世界に生きながら、何かが「同じ」であり続ける(ように見える)ことに安心感を覚えます。しかし、「同じ」とはどういうことでしょうか。変わることと変わらないことの関係を考えることは、アイデンティティや成長、伝統と革新といった問いにつながっていくかもしれません。

今回のテーマは、変わること。アイのおじいちゃんの古本屋を訪れた4人が、街の変化をきっかけに、物事が「変わる」とはどういうことか、また「同じである(変わらない)」とはどういうことか考えました。
アイのおじいちゃんが言うように、本屋は時代に合わせて品揃えを変えながらも「本を通じて人とつながる」という軸は変えていない—これは変化と持続のバランスの一例なのかもしれません。何もかも変えてしまうとすればアイデンティティが薄れてしまいますが、まったく変わらないでいることも不可能だという見方もできそうです。
マキが投げかけた「そもそも同じってどういうこと?」という問いは、実は哲学の歴史の中で繰り返し問われてきた問題です。このことを考えるときに、アキラが言っていた「テセウスの船」のパラドックスを知っておくと役に立つかもしれません。船の部品をすべて取り替えてしまったとき、それはもはや同じ船といえるのか?という思考実験は、「同一性」という問題が、まったく単純な問題でないことを直感的に示してくれます。
アイの言った「私たち自身も変わり続けている」という話も同様です。私たちの体の細胞は短いスパンで大部分が入れ替わりますし、考え方や価値観も日々変化していきます。それでも「私は私である」という感覚だけは残る―これは心理的な連続性や記憶の役割など、アイデンティティの複雑さを示唆しています。
また、カイが言うように「大きく変わったように見えても、本質的なところは変わっていない」ということもありそうです。そこには「表面的な変化」と「本質的な変化」のような違いがあるのか、あるいは単に、変化の速度や程度が違うだけなのか?謎は深まるばかりです。
最後にマキが景色を写真に撮るシーンも象徴的かもしれません。写真は一瞬を切り取って固定化するものですが、その写真自体も時間の経過とともに「昔の写真」になっていく。変化を捉えようとする行為が、変化の一部になるという逆説があるからです。
街並みの変化から始まった対話は、私たちの存在や時間の本質にまで広がっていきました。変わることと変わらないことの関係を考えることは、アイデンティティの問題だけでなく、成長とは何か、伝統と革新はどう共存すべきか、といった現代社会の様々な課題にもつながっていくのではないでしょうか。
堀越耀介
作・監修
堀越耀介
さん
東京大学UTCP上廣共生哲学講座 特任研究員 / 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員(PD)。東京大学教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。専門は、教育哲学・哲学プラクティスで、特にジョン・デューイの哲学思想、「子どもとする哲学(P4C)」/ 哲学対話の理論を研究。実践者としては、学校教育の場から、自治体・公共施設、企業・社員研修まで、幅広く哲学対話や哲学コンサルティングを行う。著書に『哲学はこう使う―哲学思考超入門』(実業之日本社)、「哲学で開業する:哲学プラクティスが拓く哲学と仕事の閾」(『現代思想』(青土社)2022年8月号)などがある。

作・監修:堀越耀介 マンガ:佐倉星来
※このマンガは『ETHICS for YOUTH』2025年夏号(No.10)に掲載したものです。
※コラムはウェブオリジナルです。