[ 特集 ]アオイナツ

アオハル時代をアイドルグループ「乃木坂46」の1期生メンバーとして駆け抜けた中元日芽香さん。キラキラと輝いていた一方で、適応障害に苦しんだことも。そうした経験すべてが、セカンドキャリアに選んだ心理カウンセラーの仕事に生かされています。

アイドルから心理カウンセラーに転身

 アイドルグループ「乃木坂46」の元メンバー中元日芽香さん。15歳の時、オーディションに合格して1期生となり、“ひめたん”の愛称でファンに愛されてきました。21歳の時にグループを卒業し、セカンドキャリアに選んだのは、心理カウンセラー。悩みを抱えた人の話を聞く仕事です。

 「今は、オンラインでのカウンセリングが中心です。モヤモヤした気持ちや悩みを抱えている人の話に耳を傾けて、その人自身の力で解決できるようサポートしています」

 「マネージャーさんの勧めで、カウンセリングを受けました。もともと自分に厳しい性格で、弱音を吐くのが苦手。普段は、しんどいとか、つらいとか言わない私が、カウンセラーさんには気持ちをぶつけていました。話すことで、自分をいたわる大切さなど、いろいろな気づきがあり、カウンセラーの仕事に魅力を感じました」

心がけているのは、相談者の目線に立つこと

 「クライアントさんは社会人の方が多く、バリバリ仕事をしている中での悩みを聞いたりしています。学生の方からは、不登校の悩みや将来の進路、親との葛藤など、さまざまな相談があります。

 カウンセリングで心がけているのは、相談者の目線に立つこと。丁寧な聞き取りをして、その人の生きている環境を理解しつつ、一緒に考えていけるように努めています。

 1時間という限られた時間の中で、どこまで力になれるのか難しく感じることもあります。けれど、『話してスッキリしました』と言ってくださったり、表情が明るくなったりすると、力になれたんだな、と実感できます」

 「日本では、カウンセリングというと、まだネガティブなイメージもありますが、私がメディアを通じて、カウンセリングについて発信することで、相談しやすい環境づくりができたらいいなと思っています」

「乃木坂46」の思い出

 「15歳から21歳までをメンバーと一緒に駆け抜けました。その頃思っていたのは、『忙しい』『眠い』『早く大人になりたい』(笑)。今はもうあんなに頑張れないなぁ。

 私は1期生だったので、一つずつ夢が叶っていく手応えを感じていました。ガラガラだったライブ会場が満員になる。東京ドームなど大きな会場でライブができる。歌番組にゲストとして呼んでいただける。『紅白歌合戦』に出場できる…。グループのみんなで一つの目標に向かって階段をのぼっていく。その一瞬一瞬が尊かったです」

 「ライブを重ねるうちに、会場でピンクのペンライトを掲げて応援してくれる人がだんだんと増えていったんです。『私の活動がみんなに届いているな』と実感できてうれしかったです。

 東京ドームのラストライブでは、私のセンター曲を歌っている時に、会場がピンク一色に染まって感動しました。『この景色を見られただけでも、アイドルを頑張ってきてよかった』と思えて、本当に宝物のような時間でしたね」

結果が出なくても悩まないで

 「それまでは、どちらかというと選んでいただける側にいたので、その時も選ばれる気満々だったんです。でも、名前が呼ばれなくて…。オーディションに合格したふわふわした気持ちが、一瞬にしてズドンと落とされた感じで。初めての挫折でした」

 「今振り返れば、自分が頑張っていなかったから結果が出なかったわけではないと分かります。けれど当時は、『私の努力が足りなかったんじゃないか』『選ばれなかったのは必要とされていないからじゃないのか』…と、自分の中に理由を探していました。

 中高生の皆さんも、テストや部活で結果が出せなかったり、同じように悩んでいる人がいると思うんです。そんな人には、『自分を責めないで』と言ってあげたい。そして、周りの人に心を開いてゆだねてみることをおすすめします。そうすると、『すごく頑張っているね』など、ほめてくれる声が素直にあなたに届くと思うから。自分の頑張りを、自分で認めてあげることが大切なんです」

アイドルの方を見ると、「青春だな」と思います。

当時「大人になりたい」と憧れていた時間を今過ごしている

 29歳になった今、アイドルだった自分を振り返ると、まさに青春だったな、と思います。
 あの頃は、「忙しい」「眠い」と常に言っていた気がします。だけど、10代だからこそ出せるエネルギーに満ちあふれていて、がむしゃらに頑張ることができた。今はもう、あんなに頑張れないと思います(笑)。
 中高生の皆さんも、部活や勉強、そして夢に向かって、忙しく過ごしていると思います。今はしんどいかもしれないけれど、きっと後から「体力のある10代に頑張ってよかった」と思い返す時が来ます。
 10代の頃は「早く大人になりたい」と思っていました。お仕事をするのにも時間の制限があったので、成人したらいろいろなルールから解放されて、グループの楽しい活動をいつまでも続けながら、自由になれるイメージがありました。
 当時「大人になりたい」と憧れていた時間を今過ごしているんですよね。「自由」に憧れる気持ちも最近忘れていたような気がします。思い出させてもらいました。

思うような結果が得られなくて、悩んでいる人へ

 中学生、高校生の頃は、テストや部活など、結果を出すことを求められることが多いと思います。私も、頑張っているのに結果が出なくてもどかしい思いをした経験があります。そんな時は、頑張っている自分に「お疲れさま」と、温かい声をかけてください。努力の過程を知っているのはあなた自身なので、「結果に反映されなくても、あの取り組みはよかったよ」みたいに、頑張った過程を評価してあげるといいですね。
 アイドル時代の私は、しんどいとかつらいとか周りの人に言うことがありませんでした。自分を守っていたつもりでしたが、「もっと頑張らないと」と自分の中でコーチのような声が大きくなってしまったんです。周りの人がほめてくれたり「頑張っているね」と言ってくれる声に、もっと耳を傾けたりしてもよかったのかな。今10代の私が目の前にいたら伝えてあげたいです。
 そして、人と比較したり、認められたいと思い込みすぎないことも忘れないでほしいです。周りの人がどうであろうと、自分を認めてあげることが重要です。認められたい思いを自分で満たすことができれば、周りのことは気にならなくなりますし、自分の軸をしっかり持てると思います。

(構成:編集部)

『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』

中元日芽香なかもとひめかさん
1996年生まれ。広島県出身。早稲田大学卒業。2011年からアイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活動、17年に卒業。認知行動療法やカウンセリング学などを学び、18年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設し、心理カウンセラーの道を歩み始める。現在は、オンラインでのカウンセリングをメインに、メディア出演、執筆など多方面で活躍中。著書に『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』がある。

写真:吉原朱美 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025年夏号(No.10)に掲載したものです。