[ 特集 ]「ありがとう」の気持ち、伝えてる?

アニメ映画『きみの色』で1600人のオーディションを突破。主人公・トツ子役に選ばれ、あこがれていた声優デビューを果たした鈴川紗由さん。今はテレビドラマや映画など、いろいろな新しいことに挑戦中。ミライが楽しみな新進しんしん俳優です。

 鈴川紗由さんが俳優を目指したのは、中学3年生の頃。その後、2020年に行われた「ニュー・ヒロインオーディション」で特別賞を受賞してユニバーサルミュージックアーティスツに所属。高校入学と同時に和歌山県から上京し、本格的に芸能活動を始めました。

 鈴川さんのブレイクスルーとなった作品が、24年8月に公開されたアニメ映画『きみの色』です。1600人が応募したオーディションを勝ち抜いて、主人公・日暮ひぐらしトツ子役に選ばれたのです。

 「初めての主役で、『これでいいのかな?』という不安があって、考えてばかり。けれど、山田尚子監督が『鈴川さんのままでいいから』とおっしゃったんです。

 劇中に、トツ子がスキップしながら『水金地火木土天すいきんちかもくどってんアーメン』と歌うシーンがあります。監督の言葉を力に、思いっ切り演じたら、監督が笑ってくれたんです。その時、私のお芝居で誰かが笑ってくれるのって、こんなにうれしいんだと初めて知りました。迷わずに、自分の思う通りに表現する。思いっ切りやる。自分が大きく変われた瞬間でした」

 完成した作品は、一緒にメインキャストを務めた髙石たかいしあかりさん(作永さくながきみ役)、木戸大聖きどたいせいさん(影平かげひらルイ役)と3人そろって試写室で観ました。

 「アフレコの時は、色も音楽もついていない映像だったのに、完成作は、山田監督が描き出す色合いや音楽、セリフが入って、『きみの色』の世界観にどっぷりひたって感動。エンドロールに自分の名前が出ているのを見て、また感動。観終わってあいさつする時は、大号泣していました。『きみの色』は、いつまでも私の芯であり続ける、大切な作品になると思います」

 鈴川さんは、15歳の頃、「夢ノート」を書くようになりました。

 「最初の頃は、どんな俳優になりたいか。どんな仕事をしたいか…など、大切なことなのに、聞かれてもはっきりと伝えられませんでした。そこで始めたのが、夢ノートです。

 最初に書いた時は、10代から始まって、60代ぐらいまでの自分の夢を書いてみました。その後も、見直したり、新たな目標を書き加えたりして、時々修正しています。

 すでにかなった目標もあります。例えば『22歳で声優の仕事をしたい』という目標は、18歳で実現しました。言霊ことだまと言われるように、発した言葉には力があるんだなと思いました。夢は思っているだけじゃなく、言葉にして伝えることが、大切なんだと思います」

 「オーディションを受けた当時、まだ“無名”だった私の声を、“唯一無二”と言ってトツ子役に選んでくださった。私には本当に奇跡。『きみの色』をきっかけに私の世界が広がりました。監督には感謝しかないので、『私のことを見つけてくれてありがとう』という気持ちを手紙につづって贈りました」

 「日常的に『ありがとう』はよく口にします。でも、例えばお母さんに『いつも家事をしてくれてありがとう』とか、面と向かって言うことは……ないです。言ったほうがいいですね。帰ったら言います(笑)。

 周りの人にプレゼントをしたり、サプライズをするのが好きなので、お母さんを食事に誘ったり、事務所のスタッフさんに旅先のおみやげを渡したりして、感謝の気持ちを伝えるようにしています」

 「映像の仕事では、まだ力不足を感じることが多くて、悔しいと思うこともあります。

 初めての挑戦は怖いですが、恐れずに挑戦して、俳優の鈴川紗由として知ってもらえる作品に出会えるように、俳優経験を積んでいこうと思っています。連続テレビ小説のヒロインを演じることが一番の目標です」

 「トツ子は自分に近い役でした。いつかは、声色を変えた難しい役にも挑戦してみたいですね」

 「私がアニメ好きで、よくアニメを見ていたからかもしれません。アニメが好きと言っておいてよかった(笑)。

 好きなことって、努力とも思わないで無理なく続けられます。熱中できるものがあるのは、それだけですごいこと。好きなことは自分の強み、武器になるし、いつかは自分のためになると思います。

 中高生の皆さんも、好きなことを大切にしていくと、世界が広がると思います」

監督:山田尚子
2024年/100分 デジタル配信中
高校3年生の日暮トツ子は、人が「色」で見える感覚の持ち主。ある日、「きれいな色」を放つ きみ、音楽好きの ルイと出会う。誰にも言えない悩みを抱えていた3人は、バンドを組み、音楽で心を通わせていく。
Blu-ray & DVD 発売中
発売元:STORY inc./サイエンス SARU
販売元:東宝
©2024「きみの色」製作委員会

夢に向かって前進中!

俳優を目指すようになったのはなぜ?

 小学生の頃に、お母さんのすすめでモデルをしていたことがあります。でも、中学生の頃には、モデルとしては身長が足りないかなと限界を感じて、当時所属していた事務所もやめていました。
 そんな時、テレビドラマで水野美紀みずのみきさんを見ました。『スカーレット』と『浦安鉄筋家族』で、まったく違うキャラクターを演じ分けているのを見て、すごいって感動したんです。そこから「俳優」に興味を持ちました。この時もお母さんが応援してくれて、事務所のオーディションに挑戦するようになりました。
 今は、この仕事が面白くてやりがいも感じています。正直、お母さんの後押しがなければ、私はここにいなかったかも。だから、お母さんにはとても感謝しています。

『きみの色』トツ子役のオーディションは大変でしたか?

 元々アニメが好きだったので、『きみの色』の声優オーディションを受けられることがうれしくて。山田尚子やまだなおこ監督の初のオリジナルアニメーションだから、たくさんの方が受けるだろうなと思っていたので、最初は、自分が受かるという想像はできませんでした。
 オーディション審査でアフレコを見たスタッフさんに、「上手だね」ってほめられた時は、「受かるかも?」って、ちょっと期待が生まれて(笑)。最終審査の時は、「ここまで来たら、絶対に受かりたい!」って思いました。
 トツ子役に決まった知らせは、サプライズで教えてもらいました。「会わせたい人がいるから」って事務所に呼ばれて行くと、クラッカーが鳴って、“トツ子役おめでとう!”というプレートが用意されていたんです。びっくりして、うれしくて、泣いてしまいました。

鈴川さんとトツ子。似ていますか?

 トツ子はすごく明るくて、周りを巻き込みながら猪突猛進ちょとつもうしんしていくような女の子。私は、めちゃくちゃ明るいタイプではなかったので、演じている時は、明るさを意識するようにしていました。
 トツ子の、頭で考えるよりも、体が先に動いちゃうようなところは、私も同じなので、そこは似ているなと思いました。小さい頃にクラシックバレエを習っていて、キリスト教系の幼稚園に通っていたのも共通点。お母さんとは「リアルトツ子だよねー」なんて話してました(笑)。

鈴川さんの「色」は、何色でしょうか?

 ピンク。私って、フワフワしている印象があるみたいで、人からは「ピンク」のイメージと言われることが多いんです。でも、自分では赤がいい。情熱的な強さのある人になりたいと思っています。

あこがれている人はいますか?

 女優として目標にしているのは、杉咲花すぎさきはなさん。杉咲さんの目から伝わってくる感情とか、お芝居がすばらしいので、私もあんな風になりたいと思って映画やドラマを見て研究しています。

(構成:編集部)

鈴川紗由すずかわさゆさん
2005年生まれ。和歌山県出身。2020年ユニバーサルミュージックアーティスツ初の女優オーディション「ニュー・ヒロインオーディション」で、2500人の応募者の中から「特別賞」に選ばれる。高校入学と同時に上京し、芸能活動を本格化。ドラマ『クールドジ男子』『どうする家康』『墜落JKと廃人教師』『御上先生』、映画『女囚霊』『私の卒業プロジェクト5期「こころのふた~雪ふるまちで~」』に出演。アニメ映画『きみの色』の主人公・日暮トツ子役の声優を務める。

写真:中村嘉昭 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025-26年冬号(No.12)に掲載したものです。