[ 特集 ]はじめよう、春!

10代の頃の不登校の経験から、分身ロボット「OriHimeオリヒメ」を開発。
ロボティクスの技術を使って、さまざまな理由から外出できない人たちの孤独を解消することが、一生のテーマになりました。

虫型ロボット競技会で優勝

 自作の“黒い白衣”がトレードマーク。分身ロボット「OriHime」の開発者、吉藤オリィさんは、「ロボットコミュニケーター」。ロボットを使って、人と人をつなぐのが仕事です。

 「ロボティクス(ロボット工学)の技術を使って、人と人とのコミュニケーションを支援するロボットの構想、デザイン、設計、開発、提供をしています。ロボットというと、ドラえもんのようなキャラクターが自動で動くものをイメージするかもしれません。でも、私が作っているのは、AIロボットではなく、人が操作しないと動かないロボットです」

 「頑張ったことは報われるという達成感を初めて知りました。一方で、1位になれなかったことも悔しくて。またこの時に、後に師匠と仰ぐけん先生を知り、『先生の弟子になりたい』という目標ができ、前向きになれました。受験勉強に励み、気がつけば学校に行けるようになっていました」

ものづくりの原点は折り紙

 「本で読んだり、人から聞いた知識だけでは分からないことも、自分でやってみて初めて見えてくる。失敗することもあるけれど、それは『こうやったら、うまくいかない』という貴重な経験です。

 回復可能なミスは大したことじゃない。まずは経験することが大切なんです」

ⓒOryLab Inc.

人をいやせるのは人だけ

 「私が社会復帰できたのは、両親や師匠、科学を学ぶ同世代の若者たちなどとの出会いがあったから。人をいやせるのも、また人だけなのだと気づきました。その時に『孤独を解消すること』を人生のテーマにしようと思いました。17歳の時でした。

 まず、“心を運ぶことができる車椅子”を作ろうと発想し、分身ロボットの開発につながったのです」

 「寝たきりの親友は、『外出できないと、出会いと発見がない』と言っていました。体が移動できないなら、心を運べばいい。さらに、孤独をなくすには、人とコミュニケーションを取る対人能力と、属しているコミュニティーで必要とされ、役割があることも重要です。

 孤独を感じている人はたくさんいると思います。けれど、その孤独な状況は、人とつながることで解消される。そのツールが分身ロボットです」

世の中は未完成
未解決の問題に取り組もう

 「今の世の中はよくできているので、自分にできることは少ないと思いがちです。でも、ちょっと見方を変えると、世の中は未完成だということが分かります。例えば、体育館が寒いという問題は、誰かがエアコンを付けることで解決する。一つ一つ問題を解決することで世の中はもっとよくなっていきます。

 私は、“できないことは価値になる”と考えています。自分や周りの人ができないこと、困っていることを見つけ、どうすれば解消できるかを考えると、新しい発明や仕事に発展していくと思います。未来を生きる皆さんには、未解決の問題に取り組むプレーヤーになってほしいと思っています」

「ないなら、つくればいい」
吉藤オリィさんが10代でつくった「人生計画」とは?

研究人生の残り時間は13年!?

 「孤独の解消」を人生のテーマに定めた17歳の頃、私は体調を崩しがちで、視力もとても悪い状態でした。特に視力は下がり続けていて、このままのペースなら30歳ぐらいで失明するかもしれないと本気で恐れていました。
 目が見えないと、ものづくりができなくなる。30歳まであと13年しかない。何ができるだろうか、と真剣に考えました。そして、30歳までに「孤独の解消」の研究で何か結果を残そうと、「人生30年計画」を立てました。
「終わり」を意識する。ネガティブな考え方に思われるかもしれませんが、結果的にはすごくいいことでした。
 短期間に残せる成果は1つか2つぐらいかもしれないのだから、いろいろなことをやっていては集中できないと考え、孤独の解消以外の研究はしないと決めました。
 そして、30歳から逆算して、ざっくりとした作戦と計画を立てました。実際は、まったく違う進行になりましたが、行動を起こす強いきっかけになりました。

「終わり」を設定して、後悔のない選択ができた

 その後、4年制の高専に入学してAI(人工知能)の研究を始めましたが、AIでは孤独の解消はできないと気づいて1年で退学しました。
 心機一転で入学した早稲田大学創造理工学部でしたが、私が研究したい孤独の解消をテーマにしている研究室はどこにもありません。ある先生からはこう言われました。「とりあえず4年間は学業を修めて、博士課程に進んだ頃には、自分のやりたい研究テーマができるよ。自分たちも、そうしてきたから」。でも、それでは28歳ぐらいになってしまう。30歳で失明するかもといわれている私には遅すぎます。
 そこで、「ないなら、つくればいい」という考え方で、20歳の時に、自宅アパートの一室に「オリィ研究室」を設置。一人で研究を始めました。目指したのは、研究者の視点ではなく、必要とする人の視点で開発し、実用化すること。22歳で、対孤独用の分身ロボットが完成。「離れた会いたい人に会えるように」と「OriHime」と名付けました。その成果が、現在の会社「オリィ研究所」につながっています。
 私は現在37歳。体調も安定しているし、ICL(眼内コンタクトレンズ)手術をしたので視力が低下する心配もなくなりました。
 今振り返っても、「終わり」を意識したことで、人生の岐路に立った時に後悔のない選択ができたし、前に進む力になったと思っています。本当に大切なものに力を注ぎたいなら、「終わり」を設定して、計画を立てることには価値があると思います。

(構成:編集部)

吉藤オリィ

『ミライの武器』吉藤オリィ(サンクチュアリ出版)

よしふじ オリィさん
1987年奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所代表取締役所長CVO。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。「孤独の解消」を人生のテーマに定め、早稲田大学創造理工学部に在学中、対孤独用分身ロボット「OriHime」を開発。その後、株式会社オリィ研究所を設立し、ALS等の難病患者向け意志伝達装置「OriHime eye+switch」、車椅子ユーザーのためのアプリ「WheeLog!」などを開発。著書に『「孤独」は消せる。』『ミライの武器』などがある。

写真:石山勝敏 イラスト:藤 美沖

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2025年春号(No.9)に掲載したものです。