国内はもちろん海外でも大人気のアニメ『ハイキュー!!』の主人公・日向翔陽を演じる村瀬歩さん。
声優を目指して“人間になった”と話すその理由とは?
今年2月に公開された『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が大ヒット。バレーボールに青春をかける主人公・日向翔陽の声を担当したのが、声優の村瀬歩さんです。
「日向を初めて演じてから、もう10年になります。当時は、声優デビューをして3年目くらい。それまで、オーディションで主人公役に受かったことがなくて、アフレコでやり直しを指示されることはあまりなかったんです。でも、日向は主人公。作品の軸になる役なので、“もう一生終わらねぇ!”と思うくらい、毎回居残りで収録しました。今は笑って話せますが、あの頃が一番苦しかった!
自分の中でバシッと芝居がハマる感覚や、監督からOKが出る芝居がどういうものなのかが分からなくて、声優の仕事ってしんどい、楽しくないなぁと思っていました(笑)。でも、今は大事に育てていただいたのだと分かります。あの時、逃げなくて本当によかった!
最初の頃、影山飛雄役の石川界人くんと意見が合わなくて、大げんかをしたことがあるんです(笑)。でも、そこからすごく仲良くなりました。やっぱり、お互いの思いをぶつけ合うって大事ですね」
「『ハイキュー!!』には心に残る言葉がたくさんあります。例えば、日向がインターハイ予選で青葉城西高校に負けた時、武田先生が日向と影山に言うせりふ。『“負け”は弱さの証明ですか? 君たちにとって負けは“試練”なんじゃないですか?』
この言葉は当時の自分にも刺さりました。何かにつまずいた時、そこからどう立ち上がって生かしていくのか。考えることの大切さが込められていると思います」
この言葉を受けて、日向は負けを糧に成長し、前に突き進みます。
「なんでも最初からうまくできる人はいないし、技術はだんだん磨かれていくもの。勝負に負けたり、つらいことがあっても、“好き”という気持ちや情熱の力があれば、努力を続けられます。
僕を真剣に叱ってくれた
友だちは今も友だち
ただ、“好き”だから苦しいこともあります。僕の場合だと、やりたい役のオーディションに落ちてしまった時。期待がふくらんでいただけに、自分の理想と、なれない現実のギャップに苦しくなります。それでもまたオーディションに挑戦しようと思うのは、声優が好きだからです。
でも、好きなことが見つからない人もいるかも。そんな時は“好き”から始めなくてもいいんじゃないかな。続けていると好きになる可能性があるでしょう? 人生は一度きり。興味があることに一歩踏み出す勇気を持つこと。それが大事だと思います」
『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
原作:「ハイキュー!!」古舘春一
(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督・脚本: 満仲勧
キャスト: 村瀬歩 石川界人 梶裕貴 中村悠一
TV シリーズ 各動画配信サービスにて配信中!
Blu-ray&DVD 発売中!
「高校生の時は、カードゲームにハマって、大会に出たりしていました。将来の夢というようなものもなく、就職のために大学に入ろうと思って勉強はしました。受験勉強は10代の時に一番頑張ったことですね。大学に入ってからは時間ができたので、声優の養成所に入りました」
演劇ではなく声優の養成所を選んだのは、声が変わっていると言われることが多かったから。
「就職の面接で“お芝居の習い事をしていた”と言ったら面白いかも!という、軽い気持ちからでした(笑)。
でも、この一歩が大きかった。いろんな役を演じるのが面白くて、どんどん芝居にのめり込んでいきました。スーパー負けず嫌いなので、クラスで評価されている子がいると、“絶対、僕のほうがうまいのに!”と思っていましたね(笑)」
アメリカで幼少期を過ごした村瀬さん。そのせいか、幼い頃から人の目をあまり気にせず、自分のやりたいことを主張してばかりいたのだとか。ところが、養成所に入ってからその性格が変わったといいます。
「ひと言で言うと“人間になった”のかな(笑)。それまでは、離れていく友だちがいても気にしなかった。考えが変わったのは養成所の友だち5人と旅行した時。みんなが思い出にプリクラを撮ろうと言ったのに、僕は空気を読まずに帰ってしまった。すると、友だちの一人が『ちゃんとせえや。あかんで』と叱ってくれたんです。それがきっかけで、もっと人に興味を持とうと思うように。相手の立場に立ち、“ありがとう”や“ごめんなさい”も言うようになりました。あの時の友だちとは今も仲がいいんですよ」
声優になってからも、この時の変化が生かされているそうです。
「さらに周りを見るようになりましたね。声優は“せーの”で声を出したり、息を合わせることが必要な仕事。人との関わりが大事なんです」
今、声優は人気の職業です。声優になるために必要なことはありますか?
「僕は台本を読む時に、自分のせりふがなぜそうなったのかを、前のシーンまで戻って考えていきます。誰が、どこで、どういう気持ちになったのか。僕のせりふに行き着くまでの筋道を立てるんです。この作業は国語を勉強するといいんですよ。数学もめちゃくちゃ使います。数学は物事を逆から考えたり、点と点の間を考える思考能力を養えるので、どちらもできたら最強です!
勉強すると将来選べる道が増えるし、努力の癖が身に付きます。うまくいかないことがあっても、悔しい気持ちは別の経験につながります。その意味で、努力は自分を裏切らない。だから、夢がない人ほど勉強してほしいですね。そして努力に疲れたら、アニメが皆さんの息抜きや楽しみになってくれたらうれしいです」
村瀬歩さんに聞く“10代の頃何してた?”
Q.好きだったことは?
学校では、モーニング娘。やリンジー・ローハンやマドンナもよく聞いていました。ゲームは「ファンタシースターオンライン」を3000時間くらいやりましたね(笑)。ネットワークにつないで対戦したり、いい武器が出るまで、ひたすら潜り続けていました。
Q.あこがれていた存在は?
高校時代なら 、カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のプロプレイヤー・黒田正城さん。黒田さんが作るデッキ(プレイヤーが使うカードの集まり)が面白くて憧れていました。今もプロプレイヤーとして活動している方なので、いつか会ってみたいです。
村瀬歩
さん
12月14日生まれ。アメリカ合衆国出身。大学生の頃に声優を志し、日本ナレーション演技研究所に入所。2011年にゲーム「Persona4 the ANIMATION」で声優デビュー。2015年、第10回声優アワード新人賞受賞。主な出演作は、アニメ『ハイキュー!!』シリーズ(日向翔陽)、『魔入りました!入間くん』(鈴木入間)など。
写真:吉原朱美
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2024年秋号(No.7)に掲載したものです。