金髪にギャルメイク、勉強嫌いだった通称“ビリギャル”の小林さやかさんは、現在、アメリカの名門大学に留学中。中高生時代の頑張りで人生が変わりました。
『ビリギャルが、またビリになった日
勉強が大嫌いだった私が、
34歳で米国名門大学院に行くまで』
小林さやか(講談社)
“ビリギャル”誕生
2015年に公開された映画『ビリギャル』(主演=有村架純)は、偏差値30で学年ビリのギャルが、1年半で偏差値70の慶應義塾大学に現役合格するまでを描いた実話です。映画は、観客動員数280万人突破の大ヒット。
その主人公のモデルとなった“ビリギャル”の小林さやかさん(当時27歳)も注目され、大学受験をテーマに講演をするようになりました。反応は実にさまざま。「もともと頭が良かったから合格できたんでしょ」「私も『慶應を目指す』って言ったら、『絶対に無理』ってみんなに言われた」。そんな声を聞くうちに、小林さんは、「何で私だったんだろう」と考えるようになりました。
「私みたいに1日15時間勉強して、めっちゃ頑張って、目指す大学に入った人はたくさんいる。奇跡ではないんです。そのことを考えながら教育現場の人たちと交流するうちに、私はすごく恵まれた環境にいたんだな、と気づきました」
小林さんの言う「恵まれた環境」をつくっていたのは3つの要素でした。
1つ目は、優れた指導者である塾教師坪田信貴先生に出会ったこと。坪田先生は映画の原作『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』を13年に出版し、ビリギャル現象をつくるきっかけになった人でもあります。
「ギャルの外見や学力で判断する大人が大っ嫌いでした。私のことをほとんど知らない校長先生に、『おまえは人間のクズだ』と言われたこともショックでした。
そんな大人たちに絶望していた時に出会ったのが、坪田先生。初対面の時、先生は私のギャルメイクや雑談を面白がってくれました。私も『こんな大人もいるんだ。人生楽しそうだな』と驚きつつ、会話が弾み、『君みたいな子が慶應に受かったら面白そうだね』という先生の言葉がきっかけで、慶應大学の受験を決めました」
2つ目は、「さやちゃんは世界一幸せになる」が口癖のお母さんの存在です。
「母はいつも私の味方で、私がやりたいことは全てやらせてくれ、全力でサポートしてくれる人。私が『慶應に行く』と宣言した時も、『いいじゃん、楽しそう』って、すぐに賛成してくれました」
3つ目は、小林さん自身のマインドセット。マインドセットとは、これまでの経験や教育からつくられる思考パターンで、アメリカでは研究が進んでいます。「能力は努力次第で伸ばせる」と考えるグロースマインドセットと、「能力はもともと決まっていて変わらない」と考えるフィックスマインドセットの2つがあり、小林さんは前者でした。
「ユニークな母に育てられたおかげで、私の性格はポジティブ。『私ならできるっしょ』という思い込みが強くて挑戦心もピカイチ。そんな私の考え方が、グロースマインドセットであると見抜いたのが坪田先生です。心理学に詳しい先生は、グロースマインドセットを理解し、生かすノウハウと実践するスキルを持っていました。だから私の自分を信じる力を引き出し、成長へと導いてくれたのです」
「ビリギャルが誕生したのは、精神的に挑戦できる環境が全て揃っていたからで、典型的な成功例だった」と分析。自分がラッキーだったと実感した小林さんは、次第に「日本の教育環境をもっと良くしたい。そのためには、周りの大人を変える努力をしなければならない」との思いを強くしていきました。そして、教育についてもっと学ぶため、次の一歩を踏み出します。21年には聖心女子大学大学院人間科学専攻博士前期課程修了。22年からはアメリカのコロンビア大学教育大学院で認知科学を研究中です。
「英語が不得手な私には、大きな挑戦ですが、ビリギャルの成功体験が後押ししてくれました」
自分がする選択の一つ一つが大事。その積み重ねが今の世界へとつながる。
自分次第で世界は広がっていく
中高生時代を振り返った小林さんは、「今、目の前に10代の私がいるとしたら、『後で大変だから、もっと勉強して。お願いだから!』って言いますね(笑)」と、学びの大切さを話してくれました。
「受験はゴールではなく、良い環境を選びとるための手段で、一つのツールに過ぎません。でも、合格したら勉強から解放されると勘違いしていた私は、慶應に入学してからは真面目に勉強せず、単位だけ取って、仲間と楽しく過ごすことに夢中でした。後になって、慶應には世界的に評価の高い教授がたくさんいたと知り、もったいないことをしたと後悔しました。
今、大学院で学んでいて思うのは、『学校の勉強なんて意味ないじゃん、と投げ出さず、もっとやっておけば、いろんな道があったかもしれないってこと。今までどういう学びの履歴があるかで、これから歩いていく道は大きく変わります。ものの見方や思考の仕方、発する言葉、つきあう人など全てに影響します。私は気づくのが遅過ぎましたが、10代のみんなには勉強する意味を知ってほしいと思います」
小林さんは、「中高生時代の勉強は、その先に一生続く学びの準備になる」と気づきました。
「知らないことを知るのは楽しいですよね。でも、知識を詰め込むのが学びじゃないと思うんです。本当の学びの面白さは、すでに持っている知識や考え方が、新しい知識で刺激されて、つくり変えられていくこと。その楽しさが分かってから、勉強や学びに対する価値観がガラリと変わり、これなら一生学び続けていたいなって思えるようになりました」
さらに、「勉強したことで、広い世界を知り、人生が変わった」と言います。
「慶應時代にできた人間関係は、今でも貴重な財産です。皆それぞれに社会に出て活躍しているので、そこからまた人脈が広がり、さらに世界が広がります。
中高生の頃は、学校という狭い世界が全てと思い込みがちだけれど、世界はすごく広い。そして、自分がする選択の一つ一つによって世界がどんどん広がっていく。世界が広がると、出会う人が変わり、選択肢も増えていく。
将来、なりたい自分になって、自分の生きたいように生きる。10代は、そのための準備をする大切な時期。だからこそ、周りの人に流されず、良い選択をするよう決断することが大事なんです」
渡米直前の2022年6月に開催されたトークイベント「コロンビア大学教育大学院進学小林さやかさんの新たな挑戦」では、留学の夢を実現するまでのエピソードが語られた。
YouTube『ビリギャルチャンネル』
小林さんと坪田先生のほか、ゲストも登場。受験のこと、勉強のコツ、コロンビア大学留学中の様子も公開。
映画『ビリギャル』
(2015)
監督:土井裕泰
出演:有村架純ほか
名古屋弁指導で小林さんも製作に参加。ギャル風のしゃべり方や塾の様子などもアドバイスした。
「映画 ビリギャル スタンダード・エディション」
Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray:5,170円(税抜価格 4,700円)
DVD:3,850円(税抜価格 3,500円)
発売元:TBS 販売元:東宝 ©2015映画「ビリギャル」製作委員会
小林さやか
1988年、愛知県名古屋市生まれ。“ビリギャル”のモデル。慶應義塾大学卒業後はウエディングプランナーとして活動。現在は米国コロンビア大学教育大学院で認知科学を研究中。執筆や講演などを通じて教育環境を良くしようと奮闘している。恩師坪田信貴先生とYouTube『ビリギャルチャンネル』を配信中。
コロンビア大学教育大学院で研究発表する小林さん。「大学の学生数約5000人のうち日本人はわずか20人。日本人ももっと海外での学びに挑戦し、広い世界に羽ばたいてほしいな」
※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023年春号(No.1)に掲載したものです。