[ 特集 ]私のブレイクスルー

負けず嫌いの性格だからオーディションでも、「この役をやるんだ」って思い続けていました。

『春のめざめ』に再びえた

 昨年、浅草あさくさ九劇きゅうげきで上演され、大盛況となったミュージカル『春のめざめ』がまた帰って来ます。19 世紀末のドイツを舞台に少年少女たちの思春期を描いたロック・ミュージカルで、ミュージカルの本場、ブロードウェイでも数々の賞に輝いた作品。 その舞台で、昨年の好演に続き、今年も再びヒロインのヴェントラ役を演じる俳優はいゆうの北村沙羅さんは、この作品にまた出演したいと強く思っていたと言います。

 「去年の春に大阪から上京したのですが、その直後に運よく『春のめざめ』のオーディションがあったんです。元々知っていたブロードウェイ作品だったので、どうしても出演したくてオーディションにいどみました。ドキドキしましたが、負けず嫌いの性格と作品への情熱が、良い結果につながったのかもしれません(笑)。10代の少女の内面を表現することが求められるロック・ミュージカルだったので、おしばに加え、歌やダンスなどをしっかり見ていただきました。普通のお芝居のオーディションよりたくさんのパフォーマンスをしました」

 多感な時期にいる10代の少女ヴェントラを演じることで、自分の感情もこれまでにないほど動きました。

 「小さめの劇場だったこともあって、細かい表情や声の変化までお客さまに濃密のうみつに伝わります。初日から少し経った頃に、演出の奥山おくやまひろしさんから『今日初めて、見たかった「春のめざめ」が見られたよ』と言っていただけて、めちゃめちゃうれしかったです。自分の中で宝物のようになっていた『春のめざめ』にまた出られるのは運命の巡り合わせ。再びの挑戦なので、今度は大人たちの圧を感じているようなヴェントラを表現したいと思っています」

 現在、ミュージカルなどの舞台のほか、映画やドラマでも活躍している北村さん。デビューは5歳の時でした。

 「まだ幼かったので、俳優がどういうものかも分かりませんでした(笑)。姉がバレエを習っていたので、私も何かしたい気持ちがあって、バレエを習いたいと親に頼んだんです。そうしたら、どうせなら姉とは違うことをしてみたらと、劇団を提案してくれたんです。自分でも、よく飛び込んでいったなと思います」

この仕事をやっていく!

 「5歳の時に初めて演じたのが、ミュージカル『クリスマス・キャロル』のティム役。初めてだったのに、子役の中ではソロの歌もあるいい役をいただいて、男の子役だったので髪をショートに切って歌いました。

 ティムになって、舞台のセンターに立って一人で歌った時、舞台からとてもきれいな景色が見えたんです。あの時にはっきり、この仕事をやっていくんだって決意しました。小学6年生の時には、同じ『クリスマス・キャロル』を原作にした『スクルージ』に出演しました。最初に出演したこともあり、『クリスマス・キャロル』は私にとってとても大切な作品だったので、本当にうれしかったです」

 北村さんは、10代の頃の自分を「完璧を求めるロボットみたいだった」と振り返ります。

 「負けず嫌いなんです。どうしたらうまくなるのか、どうしたら成功するのか。お芝居のことだけを考える日々を送っていて、周りの人たちや生活のことに興味が持てなかったんです。何かあせっていたんでしょうね」

 てんが訪れたのは19歳の頃でした。

 「お芝居をやっていきたいなら、人に興味を持つことが大切。周りの人たちから話を聞いたりして心を動かさないと、いいお芝居なんかできるはずない。お芝居って、普段の生活こそ大事にしないといけないんだとようやく気づいたんです。

 今、自分で決めているルールは、毎回、少しでいいから違うお芝居をすること。そうすると、新しいものが生まれてきて、多くの新鮮な発見があります」

もっと人と話して心を動かさなきゃ、
いいお芝居なんかできない。
10代の終わり頃、ようやく気づきました。

怖がらないでチャレンジして

 自分のからを破ってチャレンジしたから、今があると言う北村さん。10代の人に伝えたいのは、「勇気を持って何かをやってみたら、確実に次につながる」ということです。

 「10代って本当に多感な時期で、みんなもがいていると思うんです。それを突破するには、経験や時間が必要。少し前まで10代だった私から皆さんに何か言えるとしたら、こわがらずにやってみてほしいということ。怖いからと固まって動けずにいるよりも、何でもいいからチャレンジしてみてほしいです」

 北村さんには今、大きな目標があります。

 「夢物語だと思われるかもしれませんが、私は演劇えんげきで世界が変えられると本気で思っています。お芝居をて、悪い方向に気持ちが動くことってないと思うんです。お芝居で何かのせりふが心に残ることってありますよね。その1回の感動をもっと増やしていけたら、みんなの心がいい方に変わっていくんじゃないかと。世界を良くするためにも、気軽に演劇に触れられる世の中になってほしいと思います。

 そして、私の一言のせりふが、観てくれた人の人生が良い方向に進むきっかけになったのならうれしい。それが俳優としての自分の目標です」

北村きたむら沙羅さら

2009年映画『ウルルの森の物語』のしずく役で注目を浴び、ミュージカル『スクルージ』、『Dr.コルチャックと子どもたち』『織田信長』などの舞台に出演。2023年12月、昨年に続きミュージカル『春のめざめ』に出演予定。映画『最後の忠臣蔵』、ドラマ『おちょやん』、『舞いあがれ!』などに出演。
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ミュージカル『春のめざめ』
台本・歌詞:スティーヴン・セイター
音楽:ダンカン・シーク
原作:フランク・ヴェデキント
翻訳・訳詞:金子絢子
演出:奥山寛
会場: 浅草九劇
プレビュー公演:2023年12月3日(日)
本公演:2023年12月5日(火)~23日(土)
※公演は終了しています

写真:中村嘉昭

※この記事は『ETHICS for YOUTH』2023-24年冬号(No.4)に掲載したものです。